北島康介の金言

 競泳男子平泳ぎで五輪2大会連続2冠を達成した北島康介(31=日本コカ・コーラ)が、日刊スポーツで「評論デビュー」します。アジア大会開幕日の19日、大会観戦のため韓国・仁川に到着。「金言」と題し、現役アスリートとして、思ったこと、感じたことを書いていきます。競泳は明日21日に開始。第1回は出場する日本人選手に、期待を込めたメッセージを送ります。

 アジア大会では記録を出さなければならない。トップ選手にとって、中国、韓国の有力選手がいない種目は、金メダルは当たり前。世界選手権(ロシア)のある来年は、海外の選手は本気モードになってくる。2年後のリオデジャネイロ五輪で、勝負するためにも、ハイレベルな記録を出すことが重要になる。

 世界選手権、五輪では、予選からある程度、力を出していかないと、準決勝、決勝に進めない。だが中国、韓国勢以外にライバルのいないアジア大会では予選から余裕を持って泳げる。良いコンディションで決勝レースを迎えられる。メンタル面でも世界大会よりは楽。切羽詰まることもない。記録を出す環境は整っている。

 02年釜山大会。1カ月前のパンパシフィック選手権では右肘を負傷した。事前の練習は万全ではない。しかも朝から下痢。だめかと思ったが、逆に余計な力みが消えた。もともとアジア大会は勝って当たり前と思っていた。おなかが調子悪いくらいの方がリラックスできて良かったのかもしれない。結果的に世界記録を出せたことは、大きな自信になったし、03年世界選手権、04年アテネ五輪の2冠につながった。

 最大8種目出場の萩野公介選手には世界記録を期待したい。先月のパンパシフィック選手権では個人メドレー2冠、その2週後のインカレも2冠。今大会も個人メドレー2冠はもちろん、記録が求められてくる。400メートル個人メドレーの世界記録はフェルプスの4分3秒84。高速水着のハイレベルな世界記録だが、最低でも4、5秒台と、世界記録に迫ってほしい。

 専門の平泳ぎにも注目している。今季躍進した小関也朱篤(こせき・やすひろ)選手がどこまで記録を伸ばせるか。フォームは粗削りだけど能力は高い。100メートルで58秒台の後半、200メートルで2分7秒台の中盤で泳げば、来年以降につながる。これが100メートルで59秒台の中盤、200メートルで2分8秒台の前半止まりであれば、来年、自分が付け入るスキが出てくる。来年以降の自分の指針としても、レースを楽しみにしている。

 萩野、瀬戸大也、入江陵介選手らは海外でも認められている。だが、五輪金メダルのためには、海外選手に対し、さらなる怖さを植え付ける必要がある。100分の1秒を争う競技だけに、メンタル面から少しでも優位に立つことが重要。海外のトップ選手を振り向かせるためには、好記録を出すことが一番。自分にとっても02年釜山大会の世界記録は、その後の勝負で大きなプラスになった。五輪中間年のアジア大会。日本選手にはメダルだけではなく、記録を追い求めてほしい。