<アジア大会:競泳>◇第3日◇21日◇韓国・仁川

 競泳の萩野公介(20=東洋大)が、男子200メートル自由形で大金星を挙げた。1分45秒23の日本新記録で、金メダルを獲得した。ロンドン五輪男子400メートル自由形金メダルの孫楊(22=中国)と08年北京五輪男子400メートル自由形金メダリストで今大会のプール会場に名前がつく韓国の英雄、朴泰桓(24)をラスト50メートルからのスパートで追い抜いた。最大8種目に出場する今大会は、歴史的勝利で幕を開けた。

 超満員で埋まった仁川の会場が、一瞬静まる。萩野はラスト20メートルで、2人の金メダリストを逆転する。フィニッシュ後、電光掲示板を確認すると、左手の人さし指を突き上げ、水面に拳をたたきつけた。両隣には北京五輪金メダルの朴と、ロンドン五輪金メダルの孫がぼう然とたたずんだ。

 作戦がはまった。先月のパンパシフィック選手権では前半速く入りすぎて、最後の伸びを欠き、0秒1差で金メダルを逃した。レース前、日本代表の平井伯昌監督(51)からは後半勝負を指示された。朴と孫に先行されても焦らない。ラスト50メートルは3位。右の朴、左の孫を確認しながら「バテている。食えるな」と冷静にスパート。金メダリスト2人が互いに意識し過ぎて失速する中、最後の20メートルで2人をとらえた。

 最大8種目に出場する今大会。金メダルは個人メドレー2種目を計算に入れていた。事前に選手たちがコーチ陣に提出した目標金メダル22個の中に200メートル自由形は入っていない。「2人(孫、朴)に比べると実績もない。胸を借りるつもりで、1位になれるとは思っていなかった」。驚きを隠せなかったが、全種目を泳ぐ個人メドレーの強化と多種目挑戦で、着実に自由形の実力は上がっていた。

 今季は8月21日開幕のパンパシ、今月5日開幕の日本学生選手権、そしてアジア大会と連戦が続く。ハードな日程だが時差はない。平井監督は「パンパシから上げて、アジア大会でばっちり合うようにした」と綿密に計算。パンパシ前に持久系の練習を重視し、パンパシ後の日本学生選手権では、専門外の400メートルリレーなどに出場。100メートル自由形を全力で泳ぎ、実戦でスピード強化を図った。

 テニス錦織圭の活躍に国内が沸いた。男子シングルスで日本人96年ぶりの全米ベスト4、初の決勝という表現が頻繁に使われたが、萩野は違和感を覚えていた。「錦織さんが『今までの日本人がだめだったから自分もできない』と思ったことはないはず。自分の可能性にチャレンジを続けた結果で、限界を決めずにやっていたと思う」。常識にとらわれない生き方は、今回の偉業にもつながった。

 200メートル自由形の快挙の45分後には「浮かれてる場合じゃない。集中」と100メートル背泳ぎで銅メダルを獲得した。今大会の目標は複数金と出場全種目のメダル。底の知れない20歳が、大会の主役になる。【田口潤】