ロンドン五輪開幕まで100日を切り、男子陸上短距離のスーパースター、ウサイン・ボルト(25=ジャマイカ)が高らかにほえた-。英BBC放送(電子版)のインタビューに対し、100メートル9秒40、200メートル19秒00の驚異的な目標タイムを掲げ、「世界中を驚かせたい」と宣言した。今回の五輪を競技人生の最終章と位置付けていることも告白し、「生きる伝説になる」。世界中を魅了してやまない超人・ボルト劇場を、今夏ロンドンから発信することを強く約束した。

 史上最強の超人が、驚異の世界記録をぶち上げた。

 ボルト

 世界は俺に(100メートルを)9秒40、(200メートルを)19秒で走ることを期待しているんだ。驚かせたい。みんなは俺の個性豊かな人間性を見たいだろうし、俺もふざけた行為で楽しんでいる。だけど記録の上でも見せつけてやりたい。もしオリンピックを制すれば、俺は「生きる伝説」になる。「生きる伝説」が歩いているんだ。おもしろいじゃないか。

 100メートルは9秒58、200メートルは19秒19の世界記録保持者。4年に1度の五輪イヤーに、お祭り男のテンションは高まるばかり。派手な花火を打ち上げた。

 100メートルを9秒40って、いったいどれくらいすごいのか-。あの84年のロサンゼルス五輪で4冠に輝いたカール・ルイスと比べてもその差は歴然だ。ボルトが9秒40でゴールしたとシミュレーションすると、その時、あのルイス(9秒99)はまだ94メートル09地点。つまり6メートルもの差をつけてしまう。さらに08年北京五輪のボルトにも3メートル差。アジア最速女王・福島千里(11秒21)と競争した場合、16メートル15もの大差をつけてゴールすることになる。もはや人間というより野獣並み、だ。

 ボルトのどこに「伸びしろ」があるのか。北海道ハイテクACの中村宏之監督は「決してスタートが悪いわけではないが、前半に改良の余地があるのでは」と指摘する。身長196センチ。長いストライドを生かした中盤以降の加速力は圧巻。地面の反発力を生かした「ロケットスタート」が身に付けば、前半からぶっちぎる走りが見られそうだ。

 奇想天外な男は、過去にも「9秒40」をぶち上げている。09年8月に英BBCに、10年7月にAP通信に対し「9秒40はおそらく可能だと、いつも言っている。自分がそこに到達する選手になりたい」。そして今季、機は熟したということか。そのボルトは今回、意味深長な言葉も残した。

 ボルト

 俺は競技人生の最終章にいる。だから俺の望むような結果を出したい。そのためには、どんな過酷なトレーニングにも挑んでいくさ。

 その視線は次のリオを見ていない。ロンドンでパッと大きな花火を打ち上げるのか。世界中が楽しみにする「真夏の夜の夢」を、まずは自ら演出してみせた。

 ◆ウサイン・ボルト

 1986年8月21日、ジャマイカ・トレロニー生まれ。13歳から陸上を始める。02年世界ジュニア選手権を最年少15歳で優勝。04年に17歳で19秒93のジュニア世界新。07年大阪世界選手権200メートルで2位となり、100メートルに本格参戦。08年の北京五輪でリレーを含め3冠。09年8月の世界選手権では100メートルを9秒58、200メートルを19秒19の世界新で優勝。趣味はテニス観戦、サッカー。196センチ、86キロ。