故郷の山々が五輪メダリストを育んだ。山形市出身の加藤条治(30=日本電産サンキョー)はスピードスケートで3大会連続五輪出場。10年バンクーバー五輪では男子500メートル銅メダルに輝いた。スケート王国と呼ばれる北海道や長野勢が多数をしめる中、山形が生んだ出色の存在だ。まさに山と切り離せない? 生まれ育った場所の秘密を探った。

バンクーバー五輪で日の丸をかけて寝転ぶ加藤
バンクーバー五輪で日の丸をかけて寝転ぶ加藤
ソチ五輪でタイムトライアルでスタートダッシュを決める加藤
ソチ五輪でタイムトライアルでスタートダッシュを決める加藤

 山形市岩波の加藤の実家は、西蔵王高原の山裾にある。標高およそ300メートル。自然林に囲まれた実家ベランダから山形市中心部が眺望できる。通学した滝山小まで約1・4キロで標高差は約125メートル。山形六中と山形中央高へはそれぞれ2・5~3キロの道のりで、150~160メートルの標高差がある。毎日が山登りだった。

 曲がりくねった坂道を小学時代は徒歩で、中学・高校時代は自転車で往復した。加藤の足裏の筋肉は盛り上がるように発達した。父昌男さん(66)に当時を振り返ってもらった。

加藤の実家近くから眼下に望む山形市内
加藤の実家近くから眼下に望む山形市内
加藤の戦歴を物語るメダルやトロフィー
加藤の戦歴を物語るメダルやトロフィー

 昌男さん 体が小さくて3輪車はつま先でこいでいた。足は速かったね。木登りも得意だった。努力もしたが、自然に体力や筋肉がついたのかな。

 自転車の下り道はスピードが出る。カーブも多く、「世界最速のコーナリング」と呼ばれる加藤のスピード感覚も、このころに培われたのだろうか。さらに標高の高さは、日常から「プチ高地トレーニング?」になった。酸素濃度は海抜0メートルを100%として、高度500メートルで94%になるといわれている。小差ながら、平地より希薄な実家の酸素濃度が、加藤の心肺機能を高めたに違いない。

山形市岩波の県道から加藤の実家に向かう山道
山形市岩波の県道から加藤の実家に向かう山道

 子供時代は車で30分ほどの蔵王温泉スキー場や蔵王温泉に家族で通った。同スキー場には、最大斜度38度の急斜面「横倉の壁」もある。

 昌男さん 4人兄弟の末っ子で、小学生の時から兄たちのまねをして『スピート感がいい』と直滑降で吹っ飛んでくる。でも自分の力でスピードが出せるスケートを選んだ。

 開湯1900年以上の歴史を誇る同温泉は、全国屈指の強酸性泉で疲労回復はもとより、筋肉や関節痛に効能がある。

 蔵王温泉観光協会の黒崎広宣事務局長(54) (社会人になってから)条治(加藤)が来たという話は聞きませんが、スキー部や山形の社会人駅伝チームが、夏に合宿したことはあります。

山形・蔵王温泉スキー場の最大斜度38度の横倉の壁(上)
山形・蔵王温泉スキー場の最大斜度38度の横倉の壁(上)
全国随一の生産量を誇る山形名産のサクランボ
全国随一の生産量を誇る山形名産のサクランボ

 忘れちゃいけないのが、子供のころから食べ慣れていた名産のサクランボだ。山形はくだもの王国。蔵王連峰などの地理的な影響で、昼夜の寒暖差が大きく、甘くておいしい実がなる。なかでもサクランボの収穫量は全国1位。鉄分やカロテンが多く、疲労回復や血行促進に効果がある。利尿作用を促すカリウムも多く、腎臓機能を高め、激しい運動に必要な酸素を全身に運ぶ赤血球を増やす効果も期待できるという。

 アスリート必食? のサクランボを広く周知するため、地元も動き始めている。農産物などの「機能性表示」の規制緩和を受け、昨年度に約3500トンのサクランボを出荷したJA全農山形でも「効能」の表示を検討している。

 JA全農山形の園芸振興課・土門元義課長(50) 取り組みはこれからですが、県と連携しながら進めていきたい。佐藤錦や山形県で品種改良した紅秀峰が主力ですが、品種によって成分は多少違うと思うので、これから調べてみたい。

 食べ物でいえば、四季折々の山菜やキノコ類も豊富だ。加藤家でも山菜鍋をよく囲んだ。

 昌男さん 豆腐や納豆に(山形独特の)だし。そばもある。小さい時は地元のものしか食べていない。タラの芽、コゴミ、ウドなどの山菜も家の周りにも植えて食べたい時に取ってくる。

 まさに蔵王連峰の恵みから生まれた自然児。現在、加藤は18年韓国・平昌(ピョンチャン)五輪に向けてリセット中だ。五輪金メダルを目指す加藤が、「ザ・王」(蔵王)を狙う。【佐々木雄高】

トリノ五輪スピードスケート レース後、観衆に笑顔で手を振る加藤
トリノ五輪スピードスケート レース後、観衆に笑顔で手を振る加藤

 ◆山形市 山形の県庁所在地で山形盆地南部に位置する。総面積は381・30平方キロメートル。人口25万3108人で世帯数は10万304世帯(ともに3月1日現在)。市内には霞ケ城とも呼ばれる山形城跡で、桜の名所にもなっている霞城公園や山寺と呼ばれる立石寺などの観光名所を有する。盛夏には山形花笠まつり、秋には市内を流れる馬見ケ崎川の河川敷で「日本一の芋煮会フェスティバル」などが行われる。

山形・蔵王温泉スキー場と同温泉街(右下)
山形・蔵王温泉スキー場と同温泉街(右下)

 ◆蔵王連峰 奥羽山脈の山形と宮城県境に位置する連峰。蔵王山というピークはなく、主峰は山形県側に位置する標高1841メートルの熊野岳。一帯は蔵王国定公園に指定されている。山形県側は西蔵王と呼ばれ、蔵王温泉や樹氷でも知られる蔵王温泉スキー場などが観光拠点になっている。