ソチ五輪代表の村上佳菜子(20=中京大)がどん底からはい上がった。女子ショートプログラム(SP)はほぼ完璧な演技で、65・48点の4位につけた。昨年末の全日本選手権では、手応えがありながらジャンプが回転不足と判断されて9位。因縁のSPで悔しさを晴らした。

 村上の涙腺が緩んだのは、いつものリンクの上ではなかった。得点が出た瞬間だった。「演技が良くても点数がすごくダメというのを経験していて、トラウマになっていた。ホッとした、うれしいというのがあふれ出てきた」。山田コーチに抱きつくと、肩を大きく震わせた。

 3カ月前の長野、それがトラウマだった。初優勝を狙った全日本選手権で会心の出来と感じ、ガッツポーズまでしたSP。ジャンプの回転不足を3つも取られ、得点表示に顔面蒼白(そうはく)になった。

 だから、「今日は演技の前より、得点を見る時の方が緊張した」。演技ではステップ、スピンと最高難度のレベル4を獲得。緊張すると硬くなる表情まで「演じることができた」とスピンとスピンの間の踊りまで注意を払いきった。そして得点を待った。薄目で恐る恐る数字を見ると、記されたのは今季最高点。悪夢をぬぐい去った。

 「やめろっていうことかな」。ぽつりと言ったのは、全日本のSP後だった。打ちひしがれた心を救ったのは山田コーチだった。気持ちのリセットも込めて、国内旅行を計画。行き先は村上が「小学生の時に行って、景色が好きだった」という清水寺がある京都。スケートの話は極力せず、旅を楽しんだ。ことわざの「清水の舞台から飛び降りる」にあやかったわけではなかったが、以降は決死の覚悟で練習に励んできた。

 日本女子が06年以降、必ず表彰台に上がってきた世界一決定戦。鈴木明子が引退、浅田真央が休養する中で「3姉妹」と呼ばれるほど仲が良かった末妹が、その伝統をつないでみせる。フリーは明日28日。「すごい苦しいところから、思い切って演技をすることができたのは、すごく強くなったのかな」。悪夢ではなく、今度は「幸せな現実」に浸ってみせる。【阿部健吾】