フィギュアスケートの世界選手権は28日に中国・上海で最終日が行われ、ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(20=ANA)は首位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)にわずか2・82差の2位となり、日本人初の2連覇を惜しくも逃した。

 同じブライアン・オーサー・コーチに師事する同門のフェルナンデスに逆転負けを許し、「自分はそんなに心が広くないので、悔しい。次は絶対に勝ってやろうと思う。反面、仲間が勝つのはうれしいです」と複雑な心境をのぞかせたが、興味深かったのはその後の問答だった。

 今季は昨年11月の中国杯での激突流血事故に始まり、腹部の手術、古傷の右足首痛とアクシデントが続いた。しかし、予定された1つの試合も欠場することなく、万全には遠い状態で戦い続けてきた。ここに単純に疑問がある。「なぜ休まないのか。なぜそうまでして試合に出るのか」。シーズンの締めくくりに、あらためて聞いてみると、本人は一瞬きょとんとした。そして言った。

 「それは自分が現役スケーターだからです。それ以外に何もない。別になんていうか、そこに何も不思議な感覚はなくて、日本代表として選ばれたわけですし、そこで滑って戦わないといけない義務感もあった。ケガをしたのは、ここでのアクシデント(世界選手権の会場は中国杯と同じ)も自分の不注意、管理不足。そこはしっかり反省すべき点だと思いますし、不運と言われるところもあるけど、自分の中では自己管理の不足している部分が、きっと今季足りないよといわれたんじゃないかなと思う」。

 この思考回路に驚かされる。五輪の金メダリストなら誰しもが備えているというわけではなく、いわば「羽生回路」とでも言うべき考え方ではないだろうか。アクシデントに対して、自己責任だけを追求することは難しい。どうしても他者、環境への被害者意識が生まれてこないだろうか。

 そのマイナス要素を、自己反省の種として、次につながる「金の卵」的に考える。だからどれだけ故障を抱えて出場が危うくなろうが、あきらめることなく過酷な練習を続け、最後は頂点にあと1歩まで迫った。

 スケーターとして理想の体形、表現力、そしてジャンプの質。備わる武器は多々あるが、羽生を五輪王者に引き上げたのは間違いなく、このような思考回路に支えられた精神構造にあるし、再び世界王者に返り咲くためにも欠かせないものだろう。