昨年準優勝で世界4位の錦織圭(25=日清食品)が、まさかの初戦敗退を喫した。同41位のブノワ・ペア(フランス)に4-6、6-3、6-4、6-7、4-6の3時間14分の激戦の末に屈した。第4セットのタイブレークで、2本連続のマッチポイントを握りながら決め切れず、逆転を許した。

 前年準優勝者の初戦敗退に、開幕日から会場に衝撃が走った。錦織の中で、何かが壊れていた。世界一と言われた修正能力が働かない。「やっぱり悔しい。なかなかチャンスを見つけられなかった」。最後はペアに21本目のサービスエースをたたき込まれ、散った。

 4大大会の1回戦。世界王者ジョコビッチでも「緊張する」という関門だ。そこへ7月にツアー初優勝を遂げて波に乗るペアが相手。錦織は「初戦としてはタフだった」と認め、「作戦として、いいテニスができていなかった」と振り返った。持ち前の頭脳は、どこか停滞していた。

 3週前のロジャーズカップ(モントリオール)3回戦のゴフィン戦、準々決勝のナダル戦で見せたプレーが理想と、大会前に話していた。両試合ともに、速いテンポでたたみかける攻撃ストロークで試合を支配。この日の第1セットも同じ展開を試したが、逆にカウンターを浴び、落とした。

 第2セットからはペースを変えた。スピードを落とし、コントロールを重視。相手のミスを誘うことで、第4セットのマッチポイントまでこぎ着けた。しかし「ラッシュしすぎた」と言うように焦りからミスで勝利を逃すと、「引きずってしまった」という最終セットはすべてが狂った。

 身長178センチとテニス界では小柄な錦織は、緩急や球の回転、コース取りなど創意工夫したプレーで補ってきた。この日は第2セット以降、その片りんを見せた。だが最終セットはまた、相手の嫌がることよりも、自分の理想を求めて打ち合いを挑んだ。「自分がしたいプレーよりも、相手の嫌なところを優先して狙っていくべきだった」。

 2年前の全米は1回戦で敗れた。その直後の国別対抗戦デビスカップ(デ杯)で、代表の仲間と過ごし、気持ちを切り替えることができた。2勝を挙げ、復活の手応えもつかんでいる。今回も18日からデ杯がある。「空いた期間に、しっかり練習してトレーニングしたい」。会見に来た錦織の目は、心なしか赤かった。【吉松忠弘】