ソチ五輪王者の羽生結弦(20=ANA)が、シーズン初めで新機軸に手応えをつかんだ。首位発進したショートプログラム(SP)に続き、フリーでもシニア参戦後の初戦最高得点となる184・05点を記録。合計277・19点で快勝した。陰陽師(おんみょうじ)を題材にした初の和風プログラムの解釈では、ジャッジから過去最高の評価。後半の4回転ジャンプで転倒はしたが、表現者として大きな収穫を得た。

 和太鼓の音がリンクに響く。平安時代の陰陽師・安倍晴明を演じる新プログラム「SEIMEI」。純和風の笛が重なると、肩口を紫に染めた狩衣(かりぎぬ)衣装の羽生が、滑りのスピードを増していった。演技の締めに和太鼓の一打ちが再びリンクに響き渡るまで4分40秒後。悪霊を成敗する物語の主人公に変貌していった氷上の時間に「点数は自分が思っていた以上に評価された」と納得した。

 今季は五輪中間年にあたり、思い切って演技の幅を広げられる貴重なシーズン。選んだのは愛読する小説家・夢枕獏原作の01年公開の映画「陰陽師」。昨季の「オペラ座の怪人」などの洋物ではなく、初の和物に踏み込んだ。初戦、その可否は芸術要素を表す5項目の演技構成点が示した。「音楽の解釈」の9・45点は過去最高点だった。

 演目が決まると、歌舞伎に足を運び、能も研究した。体の細かい運び方などでフィギュアに応用できる要素を探した。女性振付師のシェイリーン・ボーンさんからは「リンク全体が雲に覆われていて暗闇に包まれている状態を想像して。あなたの動きに合わせて光と太陽が差し込んで、雲や暗闇が消えていくの」と具体的なイメージも与えられた。1つの腕、脚の動きまで追求し、羽生らしい「安倍晴明」を初戦に持ち込めた。

 4回転ジャンプでは後半のトーループの着氷が乱れた。連続技にできずに減点もあったが、冒頭の2本はなんとか降りきった。後半になってもスピード感が落ちない滑りに、「体力強化はかなりやってきた」と自負ものぞかせた。

 「収穫も課題も見つかった」。今大会は、プログラムへのポジティブな評価1点に尽きるだろう。グランプリ(GP)シリーズは、第2戦のスケートカナダ(30日開幕・レスブリッジ)が今季の初舞台。「また1歩進まないといけない」と、和でシーズンを染める。

 ◆陰陽師 平安時代から存在した職業。中国をルーツにした占星術、呪術、暦学などによる陰陽道(おんみょうどう)にたけた専門家。元は朝廷の官職の1つだった。代表的人物の安倍晴明を主人公に、悪霊を退治する物語として脚色されたことで有名になった。