東京五輪のボート・カヌー競技会場をめぐり、国際カヌー連盟の理事を兼務する日本カヌー連盟の成田昌憲副会長(69)は12日、鈴木スポーツ庁長官を表敬訪問した文科省で「スプリント競技の会場を移動するなら彩湖を希望します。あそこならスプリント競技がスポッと収まる。水質、風向き、大きな工事を必要としないですから」とし、海の森水上競技場、宮城県登米市の長沼ボート場以外の候補地として、埼玉県戸田市の彩湖の名前を挙げた。

 カヌースラロームの男子カナディアンシングルで銅メダルを獲得した羽根田卓也の同長官表敬訪問に同行していた成田副会長は、今回の騒動について質問が飛ぶと、やや怒りに満ちた表情で切り出した。「IOCには昨夜確認をしたところ、かなり強い口調で移動は難しいと言われた。これまでIOC、国際カヌー連盟と交渉し努力をしてきた。2つの団体の知人からは『成田はうそつきだ』と言われた。東京五輪招致が決まった時、あれは都民の意思、総意ではなかったのか。今はそれを自問自答し苦しんでいる」。

 続けて「スラロームは葛西でキープしているが、スプリントは海の森水上競技場から長沼ボート場どうこうと言われているが、ひとつの競技連盟が、2つに分かれていいのか。選手団が2つに分かれるのは困難をきたすと思う。カヌー(スプリント)としては移動はできないが、移動するなら彩湖を希望する、ということです。スラロームは東京都とヒアリングをしましたが、スプリントはヒアリングはしていません。それなのに調査チームの報道がどんどんメディアに出ている。国際カヌー連盟としても不信が募っている。いずれかで話をさせてもらいたい」と、苦しい事情を説明した。

 長沼ボート場が候補地として浮かび上がったが、成田副会長は「長沼がイヤだとかそういうことを言ってはいない。各国に迷惑をかけられない。東京都にはこれから(彩湖の件を)申し上げる。日程は決まってません」とし、移動することが避けられないなら、彩湖への変更を希望する主張を続けた。スプリント種目について「海の森水上競技場」からの変更が不可避ならば、カヌーチームが葛西と宮城に分かれるよりも、葛西と埼玉に分かれることの方が、各国チームや国際カヌー連盟への影響が少ないことが理由に考えられる。

 羽根田卓也は今回の問題について「あまり難しい問題は分かりませんが、いち選手として言うなら、東京五輪なのに会場が東京と違うなら寂しいし、絶対にイヤだと思う。是非、東京でやれればと思います」と、言葉を選びながらも選手からの視点でコメントした。

 成田副会長が混乱をきたした現状に苦悩の表情を見せた同じ日に、東京都の小池都知事を宮城県の村井知事が訪問し、長沼ボート場への誘致をアピールした。カヌー・ボート場の会場問題はまだまだ混迷が続きそうだ。