再び、ビニールハウスのヒーローを-。競泳男子でリオデジャネイロ五輪まで4大会連続出場し、銀1、銅3個のメダルを獲得した松田丈志氏(32)を指導した、久世由美子さん(69)が18日、都内で行われた「トレーニング&リカバリーセミナー」に出席し、“第2の松田丈志”を育成することを誓った。

 昨夏のリオ五輪後、28年間にも及ぶ二人三脚に終止符を打った。地方での恵まれない環境で培った反骨心が大きな武器となり、ビニールハウスのヒーローを誕生させた。久世さんは「ビニールハウスでピーマンなどの野菜ではなく、松田という人間が育った。夢を夢で終わらせない素晴らしい28年間でした。これからはまた宮崎で子どもらを見て、世界の舞台で活躍するような選手を育てていきたいです」と話した。

 宮崎県延岡市にあるビニールハウスで囲まれた水深1・1メートルの25メートルプール。東海スイミングクラブの拠点で松田氏は4歳から泳ぎ始めた。夏は暑く、冬は寒いという過酷な環境から世界に挑んだ。「ビニールハウスは我々の原点。あの環境が松田を強くした」と久世さんは言う。松田氏が小3の時、九州大会で8位入賞して賞状を満面の笑みで見せてきた。「その時に『この子を強くしたい』と思い、その笑顔にだまされて28年間やってきました」と、来場者の笑いを誘う場面もあった。

 久世さんの信念として、競技者である前に「人として一人前になれ」という考えがある。あいさつや礼儀、感謝の気持ちなど技術面以上に徹底的に指導してきたという。自身の“息子”のように厳しく教育し、松田氏は昨年9月に現役引退した。同月には結婚もして、今年2月の結婚式では仲人を務めた。選手とコーチの関係は終わったが、地元の子どもたちへ経験したことを継承したいという思いは共通している。久世さんは言う。「松田を4歳から32歳まで見て、考え方も変わり、接し方も変わった。夢であった金メダルはかなわなかったけど、必死でやってきた。今は(松田に)『ありがとう』と『お疲れさま』と言いたいです」。

 同セミナーは日本水産が主催した。昨季ラグビー2冠を達成したサントリーの青木佑輔やリオ五輪トライアスロン日本代表監督の飯島健二郎氏らも参加した。