2日に閉幕したフィギュアスケート世界選手権の結果で、18年平昌五輪の日本シングル勢の出場枠は男子3、女子2に決まった。レベルアップが急速に進む中、男子の羽生結弦(22=ANA)は五輪2連覇を達成できるのか。現地で観戦した10年バンクーバー五輪銅メダルの高橋大輔氏(31)が、来季の展望を語った。

 男子はあらためて異次元だな、と感じる大会だった。羽生選手は4回転4本のジャンプを含む高難度のフリーを、こなすだけでなく、表現として見せ、男子のレベルを何段階も上げた。これで来年の五輪に向け、より一層レベルは上がっていくと思う。目新しさもあるのか、これまでは難しい技をやることで評価が高まるように見えたが、既に4回転ジャンプをすべて成功させるのは当たり前。それ以外の部分で勝負する流れになってきている。

 僕は、羽生選手は来季あえて新しいことをしなくてもいいと思う。それでも五輪連覇は彼の実力なら確実にできる。ただ、チェン(米国)(※注1)がフリーで4回転6本を確実に入れ、その上で見せるスケートをしてきた場合は、5本が必要になるかもしれない。ただ跳べたからいいというのではなく、個性や魅力を生かし、伸ばすのが大事。つなぎ、スケートのスピード感、そこは年齢関係なく、年を重ねれば重ねるほど伸びていく。羽生選手もこの部分はまだまだ進化していくだろうと思う。

 宇野選手は、この1年でだいぶ風格がついてきた。今回のショートプログラム(SP)、フリーともにジャッジや観客に向け、気持ちをぶつけていっているのが見えた。大きい大会を経験すればするほど出てくる自信がついてきたのだろう。

<宮原 始動遅れても巻き返す力>

 五輪出場が2枠になり、メダルの可能性や優勝の可能性が1つ減るのは痛手だが、一層日本女子の力が上がるチャンスでもある。

 その中で、厳しいのは宮原選手。故障が早く治れば問題ないが、癖になる可能性もある。14年ソチ五輪前の自分の経験でいえば、追い込みたいけど痛くて追い込めず、焦りとの闘いだった(※注2)。調子が上がるのかという不安が、五輪本番まで続いた。だから、今きっちり治してほしい。始動が遅れたとしても、彼女は巻き返せる力がある。

 本田選手は世界ジュニアでザギトワ(ロシア)に負けて悔しかっただろうし、今回の世界選手権を見てシニアがすごい戦いだと感じているでしょう。彼女は華があるのが強み。シーズンを通してコンスタントに演技を決めていけるようになれれば、シニア1年目でも五輪出場の可能性はある。でも三原、樋口、坂本選手も堅い。

 浅田選手は、やっぱり試合が好きなのだと思う。ずっとスケーターでいることはできるが、現役はそう長くはできない。納得いくまでやってほしい。また、女性は体の変化もあり、ピークがその年に訪れるかというところもある。今季と来季で、状況ががらっと変わる可能性もありうる。

<高橋大輔氏の近況:ショーの稽古中>

 自分も試合っていいな、もう1度経験したい、と思うこともある。勝てないので戻らないが…。今は歌舞伎とフィギュアが融合したアイスショー「氷艶」(※注3)の稽古中だ。歌舞伎はやはり難しい。見えを切るとか、刀を持つ、何となくはできるが、なかなか様にならない(笑い)。ショーがストーリー仕立てになっていて、プロジェクションマッピングも使ったり、演じる僕たちも想像つかないぐらい、非常に格好いいものになるはずだ。

【取材・構成=高場泉穂】

 ※注1 ネーサン・チェン。今季シニアデビューの17歳。2月の4大陸選手権ではフリーで史上初の4回転4種5本に成功し優勝。世界選手権では6本に挑むも、2本転倒し6位。

 ※注2 高橋氏は08年に右膝の前十字靱帯(じんたい)と半月板を損傷。その後、引退の14年まで完全に回復しなかった。

 ※注3 5月20~22日、国立代々木競技場。

 ◆高橋大輔(たかはし・だいすけ)1986年(昭61)3月16日、岡山県生まれ。8歳からフィギュアスケートを始める。02年世界ジュニア優勝。06年トリノ五輪8位。07年世界選手権2位。10年バンクーバー五輪銅メダル、世界選手権優勝。12年世界選手権準優勝、グランプリファイナル優勝。14年ソチ五輪6位。同年10月に引退。血液型A。