日本勢初の快挙だ。W杯参戦4シーズン目の小林陵侑(22=土屋ホーム)が、日本男子初の個人総合優勝を決めた。

1回目127メートル、2回目126メートルで5位となり、個人総合2位カミル・ストッフ(ポーランド)に500ポイント差をつけ、5試合を残して総合優勝が確定した。4戦ぶりに表彰台を逃したが、今季23戦で11勝、表彰台16度は日本勢シーズン最多。第2戦の初優勝から一気に栄冠を手にした。

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小林陵がジャンプの歴史を塗り替えた。1回目127メートルで4位につけ、2回目は追い風で126メートルと飛距離が伸びず5位。渋い表情だったが、総合2位ストッフが13位と失速。残り5試合を残し、堂々の個人総合優勝を確定させた。「まだ実感はわかない。今季は安定してコンスタントに表彰台に乗ることが出来た。良いシーズンになっている」と喜びをかみしめた。1979~80年シーズンに発足したW杯ジャンプ男子。欧州勢以外の総合優勝は初めての快挙だった。

新星の持ち味は抜群のセンスと身体能力。高校1年ですでに声をかけられ、卒業後の15年に土屋ホームに入社した。2年目で初めてW杯にフル参戦したが、30位以内に入れず2回目に進めない屈辱を個人17試合すべてで味わった。想像していなかった世界との壁に帰国時は「厳しいっす…」と落ち込んだ。オフには周囲が「目の色が変わった」というほど練習に貪欲になった。翌シーズンの平昌五輪ノーマルヒルでは日本勢最高7位。手応えを得て臨んだシーズンだった。

今季は崩れない強さが加わった。23戦11勝と世界を圧倒した。体の動きをより頭で考えられるようになった。昨年、所属先のスキー部は若手に脳波トレとメンタリストによる座学を導入。骨格から神経に至るまで体のつくりを学んだ。オフの沖縄・宮古島合宿やW杯から一時帰国中の短い期間でも行った。新しい試みに「数十万では足りない」(スキー部関係者)という額の予算を計上。積み重ねてきたものと、天才的な感覚に理論も備わり無敵状態となった。今季の躍進に小林陵は「会社のおかげ」と常に感謝を口にしている。

W杯総合優勝の壁は高く、これまでの最高は97~98年シーズンの船木の2位が最高。その船木を含めた長野五輪団体金メンバーの原田や、所属先の監督も務めるレジェンド葛西らが届かなかった大きなタイトルを手にした。今季W杯で記録を次々と塗り替える度に口にするのが「まだ自分は五輪で金メダルを取っていないので」。無限の可能性が詰まっている22歳は進化を続ける。

◆W杯個人総合ランキングの決め方 W杯の試合ごとに1位100ポイント(P)、2位80P、3位60P、4位50P、5位45Pなど上位30人までがポイントを獲得し、その通算で順位付けされる。総合1位で得点が並んだ場合、勝利数の多い選手が上位。今季、ストッフが残り5戦全勝で仮にポイントで小林陵に追いついても、11勝の小林陵が上回る。