<世界体操>◇9日目◇15日◇東京体育館

 大会史上初の個人総合3連覇を達成した内村航平(22=コナミ)が、種目別決勝でも新たな伝説をつくった。床運動で日本勢として1974年バルナ大会の笠松茂以来、37年ぶりの金メダルに輝いた。冒頭に最高のG難度の大技、後方抱え込み2回宙返り3回ひねり(リ・ジョンソン)を成功させたが、最後のひねりが高速で審判が2回ひねりと誤審。コーチの抗議で技の難度を示す演技価値点(D得点)が6・5から6・7に0・2点上がり、合計15・633点で優勝。肉眼で見えない高速回転が、あらためて内村の異次元のすごさを象徴した。

 あまりにも速すぎた。肉眼では追いつかない。審判もだまされた。前日は世界一美しい体操で3連覇を達成した内村が、この日は世界一の技で金に輝いた。「それだけひねりが速くて見えなかったということ。逆にうれしい」。大技は審判の誤審を誘った。

 内村の演技後、D得点が「6・5」と表示された。「この構成は自信があるので、あれと思った」。すぐに代表の森泉コーチが2人のD得点審判に抗議。しかし、「2回ひねりだった」と受け付けてもらえず、最後は技術委員長に直談判。パソコンの映像を見て、3回ひねりがようやく認定された。

 最初に示された合計得点15・433点では、最終的に4位止まりだった。0・2点上乗せされたことで一気に金メダルへ。「こんなにできるんだと、自分の実力を見てもらいたかった」。しかし、目に見えないミラクルを内村が演じた。

 今大会は自身初めて、団体、個人総合用と、種目別用の構成の2つに挑戦している。床運動は、団体や個人総合で演じたD得点6・5点の構成から、6・7点の構成に上げて挑んだ。順番を入れ替え、冒頭のE難度の2回ひねりをG難度の3回ひねりに上げた。世界でも数人しかできない大技リ・ジョンソンと高速回転に、完全に審判の目もだまされた。

 実はこの技の誤審は内村にとって初めてではない。東京・東洋高3年の時、全日本ジュニアで同じ誤審を味わった。関係者によると、あまりにもきれいな着地で、3回ひねりだと思った審判も「そんなわけがない」と2回ひねりと判断したという。すでに高3でG難度を演じていたのも驚きだが、回転の速さも、その頃から尋常じゃなかった。

 床運動には、他の種目以上に思い入れがある。父和久さんが柳川商(現柳川高)時代、高校総体で床運動で優勝した。内村も高校総体で優勝しているが「それじゃ同じ。どうしても超えたかった」。すでに全日本で2度も優勝し、実績では父親を超えてはいるが「まだ超えてる感じはしない。しっくり来ていない」。床運動が内村の原点で、そこから個人総合へのオールラウンダーへと変身した。

 種目別用の高いレベルの構成は来年を見据えてのものだ。その先にはロンドン五輪が見えている。世界選手権の日本男子としては床運動の金メダルは37年ぶり。その金メダルは、内村にとって、特別なものとなった。【吉松忠弘】