<テニス:全豪オープン>◇8日目◇23日◇オーストラリア、メルボルン・ナショナルテニスセンター◇男子シングルス4回戦

 世界ランク26位の錦織圭(22=フリー)が、3時間半に及ぶ歴史的死闘を制し、日本テニス界に新時代到来を告げた。世界6位ジョーウィルフリード・ツォンガ(26=フランス)の最速時速224キロのサーブにも、第2セット以降はリターンを返し続け、フルセットの末に日本人戦後2人目の4大大会8強進出を果たした。この勝利で30日に発表予定の最新世界ランクは20位以内が確実となった。25日の準々決勝では1933年ウィンブルドンの佐藤次郎以来となる4大大会日本男子ベスト4進出をかけ、世界4位アンディ・マリー(英国)と対戦する。

 知力、体力、精神力のすべてを使い、錦織が188センチのテニス界の巨人を倒した。2度目のマッチポイント。巨体を揺らし、ツォンガがネットに押し寄せる。その横を錦織の見事なバックのクロスパスが抜けた。何度も右手でガッツポーズをつくった。「本当にうれしいですけど、まだ実感が湧かない」。それほど試合に集中していた。

 緩急に加え、多彩な球種と、相手の読みを外すコース取りで、ツォンガのパワーを封じた。今大会、何度もツォンガの試合を見て分析した。豪打があるフォアを避けて「バックを突く作戦が当たった」。時速で25キロほどツォンガよりも遅いサーブでも、バックの高いところに配球。タイミングを狂わせミスを誘った。

 第1セットは2ゲームしか奪えなかった。しかし、第2セットの1-0で迎えたツォンガのサービスゲーム。40-30でブレークポイントを握った。初めてツォンガのサービスゲームを破る大チャンス。そこで不運が錦織を襲った。

 気温35度。コート上は50度近い酷暑で、コートの表面が浮いていた。その上にツォンガの時速195キロのサーブがたたきつけられた。不規則バウンドでエース。錦織が指摘し、コート修復のため試合が約10分間も中断された。これが2人の明暗を分けた。

 錦織の集中力は切れなかった。一方、再開後、最後はツォンガがダブルフォールトでサービスゲームを落とした。そこで「気持ちを切り替えられた」という完全に錦織ペース。第4セットを奪われたが、最終セットの第4ゲームでツォンガのサーブを破ると、そのまま押し切った。

 勝因のひとつに正確なリターンがある。試合中に、相手のプレースタイルに慣れ、作戦を読み、自由自在に対応するのが錦織の才能だ。今大会2番目に速い、最速時速224キロのサーブを放ったツォンガに対し「読みが当たったかも」と、141回のリターンで、凡ミスはわずか2本だった。

 この勝利で世界ランクが20位以内に上昇することは確実。だが快挙にも錦織は冷静だ。「まだまだ終わりじゃない。次の試合に集中したい」。準々決勝の相手は同4位のマリーだ。「スキがない選手なので、少しでも攻撃的に行きたい」。もし勝てば世界ランクでトップ10も目前。今大会、ベスト8に残った中で22歳は最年少。身長は2番目に低く、最軽量。それでも、世界の扉はこじ開けられた。【吉松忠弘】<錦織の快挙アラカルト>

 ◆最年少8強

 07年7月のインディアナポリス選手権で、日本男子の最年少17歳7カ月でツアー8強入り。

 ◆16年ぶり制覇

 08年2月のデルレービーチ国際で、92年4月韓国オープンの松岡修造以来、日本男子16年ぶり2人目のツアー制覇。

 ◆4大大会最年少勝利

 08年全米1回戦で第29シードで世界32位モナコ(アルゼンチン)を破り、日本男子初のシード撃破。18歳7カ月の4大大会日本男子最年少勝利。

 ◆日本男子最高位

 11年10月17日発表の世界ランキングで30位に入り、松岡修造の46位を更新。

 ◆世界1位撃破

 11年11月のスイス室内準決勝で世界1位のジョコビッチに2-1で逆転勝ち。日本男子で初めて世界1位を破った。92年6月のウィンブルドン前哨戦の大会準決勝で、松岡が世界2位のエドベリに勝ったのが最高位だった。