<体操:世界選手権>◇5日◇ベルギー・アントワープ

 種目別決勝の男子床運動で、初出場の白井健三(17=岸根高)が16・000点で金メダルを獲得した。五輪、世界選手権を通じ日本史上最年少の金メダリストが誕生した。予選で成功し、名前が付いたばかりの新技「シライ(後方伸身宙返り4回ひねり)」を決めた。

 「シライ」が日本人最年少で世界の頂点に立った。種目別の床運動決勝、最終演技者の白井は、審判に向かって「お願いします!」と、ハキハキと日本語であいさつ。いつも通りの落ち着いた表情で、F難度「シライ(後方伸身宙返り4回ひねり)」の着地までを決めると、優勝を確信してスタンドへ拳を突き上げた。降り注ぐ拍手を、一身に浴びた。

 Dスコア(技の難易度)は8選手中、ただ1人の7点台と高難度の技を連発し、合計得点も唯一の16点台。「結果が付いてきたので100点満点。全然緊張しなかった。種目別でも世界に通用する日本の体操を見せつけられた」。

 今大会の代表決定会見では、内村から技の印象について「(ひねりすぎて)気持ち悪い」と、独特の表現で評価された。代表合宿では、2人で跳躍器具を使い、着地を動かずに止める遊びに興じた。4回ひねりからの着地をピタリと決め、疲れるまで没頭。他の選手は「ありえない」と言った。内村と遊べるほど、白井のレベルは高かった。

 内村は、床運動で最初の演技者だった。素晴らしい演技を見せると、白井の順番では、椅子から立ち上がった。床の近くで見守り、演技後の第一声は「ヤバイ」だった。そして「期待通りにやるのがすごい。人間じゃない。大物感がある」と、再び内村らしいコメントで称賛した。白井は演技を振り返り「航平さんが演技で勢いづけてくれて自分も楽しくできた。2人で表彰台を狙っていた」。世界最高の“ひねり兄弟”が誕生した瞬間だった。

 観客席では父、勝晃コーチと母、徳美さんが見守った。父は器具メーカーに特注し、トランポリンのバネ500本を20センチから10センチに付け替え、床運動のフロアに近い秘密兵器を用意。それで息子はひねりの特訓。父は「大舞台になるほど絶対的な力を発揮する。緊張は感じないし、まさに『神の子』です」と目を細めた。

 リオデジャネイロ五輪では内村、加藤の両エースに加え、床運動と跳馬のスペシャリストとして期待される。7年後の東京五輪は23歳の円熟期で迎える。種目別だけでなく、個人総合、さらに大きな目標でもある団体金メダルを狙う。その理由は「団体の5人で金をとったら、喜びも5倍になるから」。白井がエースとなり、日本を5倍以上の喜びに包む日が、きっと来る。そんな予感を抱かせる快挙となった。

 ◆白井健三(しらい・けんぞう)1996年(平8)8月24日、横浜市生まれ。11年全日本ジュニア2部、全国中学の床運動で優勝。12年アジア選手権床運動金、団体で銀。家族は両親と兄2人。長男・勝太郎はコナミ、次男・晃二郎は日体大体操部に所属の“体操3兄弟”。161センチ、50キロ。