フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第3戦中国杯で負傷したソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19=ANA)が9日、国内で精密検査を受けるため緊急帰国した。8日のフリー演技前の練習で中国の選手と激突し、頭部などから流血していた。強行出場して2位にはなったが、影響は大きく、この日は車いす姿。出迎えたファンに何度も会釈し、成田空港から病院へ向かった。

 歩いて母国の地を踏むことはできなかった。航空機から降りると、羽生は用意された車いすに体を預けた。空港職員に押され、母親とトレーナーに付き添われて税関に向かう。ジャージーにマスク姿。演技後にはあごを7針縫い、側頭部は医療用ホチキスで傷口を3カ所留めた。左脚に軽い肉離れもあった。マスクは縫合した部位を隠すためだろうか。痛々しい姿で何度も会釈し、時折笑みものぞかせたが、負傷の影響の大きさを感じさせた。

 入国ゲートを出ると、「がんばれ」「ありがとう」という声が待っていた。空港にはファン約160人が訪れた。その姿を見ると、頭を何度も下げて、感謝を示した。空港職員からは、報道陣に対して「本人の希望」という理由で、声かけを自粛するよう要請が出ていた。カメラのフラッシュが何度もたかれるなか、無言のまま控室に入った羽生は、日本スケート連盟関係者によれば、精密検査を受けるために、空港から直接病院に向かったという。

 前日のフリー演技前の練習中に閻涵(エンカン、中国)と衝突した際には、頭部同士がぶつかった。側頭部などからの出血がひどく、脳振とうなども懸念された。この日の車いす姿を見ると、演技中に引きずっていた脚などにも、影響が出ているようだ。いずれにせよ、精密検査の結果しだいで今後の試合出場などを判断することになる。

 本人はGPシリーズ第6戦のNHK杯(28~30日、大阪・なみはやドーム)への出場を希望している。負傷後、オーサー・コーチから棄権を促す声もあったが、強く出場を希望した経緯もある。試合を休むことはできる限り避けたい気持ちがあるのだろう。

 もともと今季は腰痛の影響で10月のフィンランディア杯を欠場していた。体調面の不安があったなかに重なった悲劇。逆境に打ち勝った代償が大きなものでないことを、本人も周囲も願うしかない。

 ◆羽生の8日のアクシデント

 ショートプログラム(SP)2位から逆転を狙った中国杯のフリー直前の6分間練習で、閻涵(中国)と大激突。体を強く打ち、顔から出血した。棄権するかと思われたが、治療を終えると包帯姿で再びリンクへ。「オペラ座の怪人」のファントム役を演じたフリーでは5度のジャンプの転倒があったが、最後まで滑りきる精神力の強さをみせた。合計得点での順位も2位となった。