<フィギュアスケート:GPシリーズ第6戦・NHK杯>◇最終日◇11月30日◇大阪・なみはやドーム

 大胆不敵に大まくり宣言だ。11月29日の男子で4位になり、GPシリーズ上位6人で争う12月11日開幕のファイナル(スペイン・バルセロナ)に6番目での滑り込み出場を決めた羽生結弦(19=ANA)がエキシビションに登場。連覇がかかる舞台に「思い切って一番上を狙う」と誓った。最後の1枠の選手が優勝するのは過去19大会で1回のみ。超ポジティブ思考のソチ五輪金メダリストが、逆境を力に変える。

 羽生式計算式がはじき出したのは「+」だった。「マイナスとマイナスのかけ算でプラスになるようにしたい!」。2週間後のスペインでの決戦に、勝利の方程式?

 を導き出した。

 マイナスとはGP2戦のこと。3週間前の中国杯では他選手と接触して負傷した。完治しないまま臨んだ今大会では、SP、フリーともに4回転ジャンプで転倒し、4位に終わった。不本意な結果で滑り込んだファイナル切符に、「連覇とかは関係ない。最後の1枚をギリギリでつかませていただいたチャレンジャー。思い切って一番上を狙っていきます」。目を輝かせ、まくし立てた。

 本人は否定したが、負傷の影響はあったに違いない。前夜には過酷な滑りをみせたことを一夜で忘れさせるように、とにかく超前向きだった。残り期間の調整法を聞かれると…。

 「(衝突事故の前には)戻れない中で、これだけ乗り越える壁を作ってもらった。こんなに楽しいことはない。その壁を打ち砕くのではなくて、しっかり乗り越えたい」。

 あらためて衝突は…。

 「まれな事件を体験できた。課題が浮かび上がったので、本当に幸せ者。なんて幸せなんだろう」

 若き王者の思考形態は非常に独特。自任する逆境大好き人間の本領発揮か。いまも全身にテーピングをしないと滑れない男とは思えないはつらつさだった。

 壁は高いことは事実だ。95年開始のファイナル過去19大会(前身のチャンピオンシリーズ含む)で、「最後の1枚」の選手が優勝したのは03年大会のサンデュ(カナダ)だけ。「大まくり」は困難な道になる。

 ただ、羽生には「前例」もある。五輪王者として臨んだ3月の世界選手権。SPで3位と出遅れ、首位とは7点差と厳しい状況に置かれたとき、言い放ったのは「楽しいです、すっごい楽しいです」。そして結果は大逆転優勝。

 この日も悔しいと連呼して、思う。「ここまでボロ負けしたのは小学生以来だな」。だから、余計に燃える。「五輪チャンプとか世界チャンプとか関係ない。ジュニア時代の自分に戻った感じです」。負けず嫌いの本性がうずいていた。【阿部健吾】