<卓球:全日本選手権>◇最終日◇18日◇東京体育館◇男子シングルス決勝

 男子シングルスは水谷隼(25=ビーコン・ラボ)が2大会連続7度目の日本一に輝いた。決勝ではシード外から勝ち上がった神巧也(21)に4-0でストレート勝ちした。誰より応援してくれた祖父の他界、愛娘の誕生、初の自著出版。負けられない3つの理由を胸に優勝し、斎藤清の持つ8度の最多優勝記録にあと1に迫った。代表を確実にした世界選手権個人戦(4月、中国)ではシングルスで自身初のメダルを狙う。

 これまでの優勝以上に、水谷には勝ちたい理由があった。「負けられなかったんです。うれしいの一言」。決勝では、青森山田高と明大の後輩で「弟みたい」な神と対決。第1ゲームで4-8とリードされたが、「このままでは負ける」と攻撃の速さを増すと、相手は付いてこられず。圧勝すると、ラケットにキスして喜んだ。

 1つ目の理由。ラケットケースには、祖父焼二さんの写真を忍ばせた。昨年5月に亡くなった「心のよりどころ」。幼少期、両親に怒られると、近所に住む祖父の家へ。常に優しく、週末はいつも一緒で、試合の応援も熱心だった。昨年大会では「夢だった。年でいつ(体調が)悪くなるかわからなかった」と、周囲の反対を押し切り試合のベンチに座ってもらった。今年も良い報告がしたかった。

 2つ目の理由。会場では、昨年6月に生まれた長女の茉莉花(まりか)ちゃんが初観戦していた。13年11月からロシアリーグに参戦しており、「通算で一緒にいられたのは2カ月くらい。寂しいですよ」と吐露するが、毎日テレビ電話で顔をみる。「癒やされるし、より卓球を頑張ろうという気持ちになる。今日も絶対に負けられなかった」。

 そして3つ目は…。今月下旬に発売する初の著書「卓球王

 水谷隼の勝利の法則」。その帯には「なぜこの男は勝者であり続けるのか」の言葉が…。負けたら説得力なし。「大会前に決まってて」と苦笑した。

 世界ランクでは中国勢を除けば最高位の5位につける。国内敵なしの25歳に期待されるのは世界選手権でのメダル。「心技体すべてを高めていきたい」と語気を強めた。【阿部健吾】

 ◆水谷隼(みずたに・じゅん)1989年(平元)6月9日、静岡県磐田市生まれ。明大卒。05年世界選手権で当時男子史上最年少代表。07年全日本単を17歳7カ月で史上最年少制覇。10、14年プロツアー・グランドファイナル優勝。左シェーク・ドライブ攻撃型。172センチ、66キロ。世界ランク5位。