<大相撲秋場所>◇12日目◇24日◇東京・両国国技館

 逆転優勝へ横綱白鵬(24=宮城野)が「十八番」の封印を解いた。横綱昇進後8勝7敗(決定戦含む)だった苦手の大関日馬富士(25)を、今場所初めて得意の左上手投げで退け、1敗をキープした。5日目の把瑠都戦で左ひじ痛を悪化させていたが、前夜にモンゴルの岩塩をグルジア茶に浸して患部に張る母国の治療法で痛みを和らげた。

 痛む左腕が「命綱」だった。左四つだった白鵬は日馬富士に巻き替えられ、左上手を肩越しにつかんだ。ひじにはテーピング。強烈な引きつけは6日目以降、姿を消していた。右のおっつけで軽量大関を起こし、寄り立てること3度。最後は左上手にこん身の力を込めた。今場所初の豪快な上手投げ。日馬富士を1回転させ「久しぶりに決まった」と喜んだ。

 先場所12日目の魁皇戦で逆側に伸びた「左ひじの過伸展」を場所前の10日に再発させた。5日目の把瑠都戦で右四つで寄り切った際に悪化。個人契約する執行(しぎょう)トレーナーは「左腕を酷使したら翌日に痛みが出る状態。本来ならば1週間は安静で、場所後にエックス線検査したい」と明かす。場所入り前は1時間のはり治療が日課だ。

 母国の治療法も敢行した。前日23日夜、モンゴルの岩塩をグルジア茶と一緒に煮詰めた。母国で「健康にいい」とされる岩塩のエキスを吸った茶葉を冷やし、患部にピタリ。父ムンフバトさん(69)はモンゴル相撲の大横綱で、母タミルさん(62)は元医者。執行トレーナーは「お母さんがお父さんに行っていた方法でしょう」と話す。

 大記録に挑むため、もう負けられない。初場所から4場所連続で「14勝以上」をマーク。玉の海(70年秋~71年春)と千代の富士(88年夏~九)に並び歴代最長の長さで、残り3連勝で単独首位になる。また、この日で年間68勝4敗。歴代最多の年間84勝した05年朝青龍は、秋場所12日目の時点で67勝。記録更新のペースを続けている。

 朝青龍は全勝をキープした。V戦線から後続が次々と脱落する中、ピタリと「1差」で追う。過去11度の優勝は、ほとんどが先行逃げ切り型。12日目で追う展開から逆転した例は1度もない。「追われるより追う方が楽か」と聞かれると「変わらない」。自力優勝の可能性があるのは両横綱だけ。最強横綱への道を目指すには、痛いなんて言っていられない。【近間康隆】