<大相撲秋場所>◇13日目◇23日◇東京・両国国技館

 関脇琴奨菊(27=佐渡ケ嶽)が、大関昇進へ王手をかけた。横綱白鵬(26)を2場所連続で寄り切り。昇進の目安となる12勝へ、残り2日であと1勝に迫った。白鵬と並んで2敗となり、4年ぶりの日本人大関誕生だけでなく、5年ぶりとなる日本人力士の優勝まで視野に入ってきた。

 座布団が舞う土俵で、琴奨菊が勝ち名乗りを受けた。場内のどよめきとは対照的に、表情は不変。27本の懸賞袋を手に取り、西の花道を引き揚げた。20度目の優勝を目指す横綱を、2場所続けて撃破した。「立ち合いだけ考えて集中して、それだけできたらいいと思っていきました」と振り返った。

 利き腕の左で、相手の前まわしをつかんだ。白鵬の右を封じ、必死に寄った。得意の左四つでなくとも、構わなかった。この日の朝、土俵上の所作を2度、3度と繰り返した。前日、緊張のあまり忘れそうになったため「余計なことを考えずに戦いたいので」と説明した。念には念を入れてつかんだ白星だった。

 勝負を見届けた貴乃花審判部長(元横綱)は「大きな一番じゃないですか。千秋楽までいい形でつないだら、十分に(大関昇進の)声が掛かるでしょう」と話した。直近3場所33勝が昇進の目安。今日14日目は日馬富士、千秋楽は把瑠都と当たる。あと1勝で、念願がかなうところまできた。

 3年前に急性白血病で死去した祖父・菊次一男さん(享年76)のために精進してきた。小3で相撲を始めると、庭にホースで土俵を作ってくれた。いつも胸を出してくれた。福岡・久留米市の井上道場に通うようになると、柳川市から1時間半かけて週3回、車で連れて行ってくれた。

 祖父の口癖は「一弘が出世せんで、誰が出世するか」。父一典さん(56)は言う。「おやじは、1日4本吸っていたたばこを、一弘が大関になるまではと願掛けして、やめたんです。(亡くなるまで)4年になってました」。今場所前に帰郷した際、墓前に手を合わせて、心を整えてきた。

 先場所は横綱に勝った後、平幕に連敗して昇進を逃した。「ここからが、先場所の意味を変える戦いになる」。笑顔は封印し、自ら手綱を引き締めた。【佐々木一郎】