<日本ハム4-1西武>◇9月30日◇札幌ドーム

今季限りで現役引退する日本ハム石井裕也投手(37)が、西武22回戦(札幌ドーム)の7回2死二塁の場面で今季初登板。西武のリーグ制覇がかかる試合で高校の後輩、秋山と真剣勝負を繰り広げ、左飛に打ち取った。先天性の難聴を乗り越え、プロ野球で14年間、第一線で走り抜けた「サイレントK」が、格好良く最後のけじめをつけた。

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晩年は苦しんだ、石井裕のプロ人生。2人の小さな命が、今日までつないでくれたのかも知れない。15年2月の春季キャンプ。右下腿(かたい)ヒラメ筋の筋挫傷のため、2軍キャンプ地の沖縄・国頭に合流していた。

開幕前の負傷。沈む気持ちを奮い立たせてくれたのは、この年の1月に誕生した第1子、長男の存在だった。親となった実感を味わう間もなく、キャンプインで沖縄へ。「かわいくて仕方がない」。わずかな時間で慈しんだ息子を思い返すように、抱っこするしぐさをして見せてくれた。

普段は口べた。この時ばかりは、せきを切ったように溺愛ぶりを話してくれた。16年には右膝半月板を負傷。翌年、第2子の長女が生まれた。「あっという間に大きくなる。おむつも替えるしイクメンだよ。楽しい」。幸福感に満ちた笑顔だった。プロ最後のマウンド上にも、その表情があった。【日本ハム担当=田中彩友美】