「どうして、吉田輝星投手をドラフト1位で指名したんですか?」。野球少年から投げかけられたど真ん中の直球に、日本ハム栗山英樹監督(57)は、思わず苦笑いした。今月1日、北海道胆振東部地震で大きな被害を受けた地域へ足を運んだ時のこと。鵡川中央小学校の体育館では、地域の野球少年団をはじめとした小中学生66人が、好奇心に目を輝かせて耳を傾けていた。

今夏の全国高校野球選手権で秋田・金足農を準優勝へ導いた右腕は、大会後もその去就が注目を集めた。高卒後、即プロ入りに懐疑的な意見もあり、評価は分かれていたように思う。ドラフト会議当日、日本ハムは他球団と重複することなく、外れ1位で国民的大スターになりうる「金の卵」を指名した。

「ちょっと難しい話をしてもいい?」と切り出した栗山監督の回答は、こうだった。

栗山監督 投手の球は速ければ良いって思うんだけど、実はボールに一番揚力が付くのが、吉田君ぐらいのスピードなんだ。144~149キロぐらいだよね。回転軸が立っていてスピンがすごく効いている球には揚力が付くから、打ちにくいんじゃないかっていうデータ分析がある。だから、ドラフト1位で指名しました。

打者の近くで浮き上がる、いわゆる伸びやキレといったものだ。160キロ超の球を投げることができても、直球の回転数が少なければ、プロの打者には簡単に捉えられてしまう。球速だけでは計れない、吉田輝には1位指名にふさわしい武器があった。

栗山監督は「アメリカを含めて、今はいろいろなデータがあって、いろいろな考え方がある。物事の考え方は、変わってきている」と、子どもたちに説いた。テクノロジーが発達し、多角的な分析が可能な今、昔の常識は、必ずしも常識ではない。栗山監督は入団5年目までの選手に、変化する野球の考え方を“布教”しているという。シーズンオフを迎え、我々、担当記者もまた、指揮官から野球の奥深さを学んでいる。【日本ハム担当 中島宙恵】