その歴代のリストは1位高橋由伸、2位田淵幸一と続く。4位には岡田彰布の名が連なる。まさに球界のレジェンドがそろう。それぞれ23本、22本、20本。そう東京6大学野球の通算本塁打数である。そして堂々ここに割って入って3位にいる男は今、厳しいプロの壁にぶち当たっている。

楽天4年目・岩見雅紀外野手(27)。慶大では4年の春に5本、秋に7本を量産するなど通算21本のアーチを神宮に描いた。対戦チーム別では東大6本、法大6本、早大4本、立大3本、明大2本。たしかに東大の6本は、法大と並び一番多いが、東大から荒稼ぎしたといえる数字でもない。高校通算○○本塁打との肩書が付くスラッガーが金属バットから木製バットへの対応に苦慮する場合も多いが、岩見は木製バットの大学で本塁打を重ねてきた。

「慶大のバレンティン」とも呼ばれ、17年にドラフト2位で入った。ただ、プロの世界は甘くはない。キレのある変化球にバットは空を切り、その残像が残る体は真っすぐにも手が出ない。結果の出ないまま4年の時が過ぎた。

1年目 24打数0安打 三振は14を奪われ、本塁打はもちろん1つの四死球も選べず。

2年目 1軍出場なし。

3年目 37打数8安打1本塁打 プロ初安打でもある初本塁打こそ放つも、シーズンを通じた活躍には至らず。

4年目 7打数1安打 開幕こそ1軍も、4月中旬に2軍落ち。

プロ4年間で通算9安打、1本塁打。先月26日の契約交渉では200万円ダウンの年俸750万という提示にサインをした。(金額は推定)。

「正直、もう後がないと思う」

そう危機感をにじませた。来季5年目は背水の立場と知る。11月29日には右肘関節クリーニング手術もした。大学時代の栄光は「過去は過去」と片付ける。

あれはリーグ戦だったか、新人戦だったか。思い返せば、まだ野球担当ではない記者がふらっと神宮球場に足を運んだ時、決して野球の名門とは言えない比叡山高から1浪を経た巨漢のスラッガーは印象に残っていた。こすったように空に舞い上がった打球も、なかなか落ちてこない。それが当時ドラフト候補とは無縁の岩見だった。

華やかなプロ野球の世界。みなが憧れるスターの輝きもまぶしいが、曲折を経て苦難を乗り越えた男のドラマにも独特の味がある。そんなはい上がりも見てみたい。【遊軍=上田悠太】

楽天岩見雅紀(2020年10月24日撮影)
楽天岩見雅紀(2020年10月24日撮影)