<ソフトバンク2-4西武>◇28日◇ペイペイドーム

「必殺仕事人」と呼ばれた男は、携帯電話から明るい声を響かせた。「ヒロシには頑張ってほしいね。オレも経験あるけど、監督業はいろいろと大変だからね」。声の主はダイエー時代に打撃コーチとしてソフトバンク藤本監督を指導した大田卓司氏(72)だ。昨秋、ホークス監督就任にあたって藤本監督が指導者として尊敬する人物と話していた「恩師」である。この日の試合前も報道陣の代表取材で藤本監督は現役時代、成績を残しても外国人の補強などでなかなかレギュラーに定着できなかった悔しさを大田コーチが察してくれていたことを明かしていた。

大田氏は寡黙な打撃職人として西武時代の83年には日本シリーズMVPを獲得。ダイエーコーチに就任したときには藤本監督ら有望選手に目も輝いた。「ダイエー時代ね。藤本、岸川の長距離砲候補がいてね。打撃練習では(西武の秋山、清原)のAK砲に匹敵するくらいのパワーがあったんだよね。でも試合になると、線香花火。だからよく言ったもんだよ。『そんなヒロシにだまされて』ってね」。大田氏は懐かしそうにコーチ時代を振り返ってくれた。

「そんなヒロシ…」は80年代にヒットした歌謡曲で藤本監督が凡打に終わった時によく大田氏は口ずさんでいた。藤本監督がレギュラー定着できない悔しさに寄り添ってくれたことを伝えた時、大田氏は電話口で一瞬ためらないながら言った。「うーん忘れたなあ」と言って「オレも同じだったからね。すごく気持ちが分かったんじゃないかな」と照れたように言った。西武時代には監督に酷評されたこともある。それでもバット1本、「必殺仕事人」と呼ばれるまで打撃を磨いてきた。福岡を去ってからは台湾、韓国でも指導者となった。

「ほんと大変なんだよ。だからヒロシには体に気をつけて頑張ってほしい」。恩師は監督1年生の活躍を願っている。

【ソフトバンク担当 佐竹英治】