濃い緑の山々に囲まれた小鹿野高校のグラウンドに、野球部員の元気な声が響く。秩父駅から、路線バスで山道を抜けること約30分。国道299号沿いにある野球場のバックネット裏には「愛される野球部」と横断幕が掲げられている。

小鹿野高校の地図
小鹿野高校の地図

部員は選手11人と、マネジャー3人。高原和弘監督(29)も入って、キャッチボールをする。監督は、独立リーグ四国アイランドリーグplusで16年まで投手としてプレー。その後、地元秩父に教員として帰ってきた。顧問、部長を経て今年4月から監督に就任し「チーム力を上げるためにはどうするか。できることから徹底していきたい」と移動の駆け足や返事、コミュニケーションのとり方から気を配る。

フリー打撃で、選手たちは木製バットで大きな当たりをどんどん打ち込む。これは外部コーチの石山建一氏(78)の「大学でもすぐに対応できるように」という指導方針。早大、プリンスホテルの監督、巨人2軍統括ディレクターなどを務め、現在は週2日、小鹿野に通う。少子化の影響を受けて廃校の危機にあったが、野球部を中心に再興を考えたOBや自治体の誘いを受けて、12年から指導する。小鹿野のユニホームは00年に解散したプリンスホテルのOBに許可を取り、同じえんじ色を使ったデザインだ。選手からは「石山先生」と呼ばれる。「野球は楽しくないといけない。人数は少ないけど、打撃はレベルの高い選手が多いですよ」と期待する。

ノックを終え、整列してあいさつをする小鹿野の選手たち(撮影・保坂恭子)
ノックを終え、整列してあいさつをする小鹿野の選手たち(撮影・保坂恭子)

3年生5人のうち、4人が小鹿野中出身。主将の吉田伊吹外野手(3年)は小学校ではサッカー、中学は柔道部で、高校から野球を始めた。野球に興味はあったが、分からないことだらけ。「ランエンドヒットと、ヒットエンドランの区別が、難しかったです」と笑って振り返る。最初はきつかった練習も、今は先頭に立つ。「キャプテンに指名された時は、本当にいいの? と思ったけど、みんなに引っ張ってもらっています」と感謝する。

1年生は、山村留学で入学した長井仁内野手のみ。高校近くの旅館から自転車で通学する。新しい生活も1カ月たち「先輩が優しいし、毎日楽しいです。まずは試合に出られるように、練習と声出しを頑張りたい」と話す。3年が抜ける秋季大会は人数が足りなくなるため、単独で出場できる夏の県大会が大事になる。自宅からJR、秩父鉄道とバスを乗り継いで、2時間半をかけて通学する塩原一斗内野手(2年)は、打撃が持ち味。「打ちまくって、チームに貢献したい」と意気込む。チームで掲げる目標は「歴代最高」。小鹿野から、旋風を巻き起こす。【保坂恭子】