元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。48回目は「日本シリーズ総括」です。

 ソフトバンクの2年ぶり8度目日本一で幕を閉じた。気がついた点をピックアップしてみた。

 勝負にミスはつきものだが、勝敗に直結する大きなミスが目についた。決定的なシーンを振り返る。

 【第2戦 DeNA倉本の捕球ミス】

 2点を追うソフトバンク7回の攻撃。柳田の適時打で1点差とし、なおも1死一塁。今宮の放った痛烈な二ゴロを柴田が巧みに処理し、二塁に入った倉本へ送球したが倉本は捕球できずオールセーフ。中村晃の決勝打までつながり、結局1点差でソフトバンクの勝利。

 【第5戦 ソフトバンク明石の二塁ゴロ失策が決勝点に】

 2点を追うDeNA6回の攻撃。4番筒香と5番宮崎の連続適時打で同点。さらに1死一、三塁から代打嶺井の二塁ゴロ。併殺を焦ったのか二塁手明石がジャックル(記録は失策)し、このエラーが決勝点。

 【第6戦 DeNAに2つのミス】

 (1)2点を追うソフトバンク8回の攻撃。1死三塁から柳田が投前ゴロ。三走の代走城所はスタートを切っており、一瞬、三本間で立ち往生もDeNA砂田は一塁へ送球。城所が生還し1点差。結果論だが、9回ソフトバンク内川の同点本塁打はソロ、城所の生還がなければDeNAが逆王手だった。

 (2)延長11回裏、ソフトバンクの攻撃。1死一、二塁から松田が三ゴロ。三塁手の宮崎が三塁ベースを踏んで一塁送球も悪送球で併殺取れず。併殺が取れれば12回に突入。すでに3イニング投げていたサファテの4イニング目(12回)は厳しかった。投手の変わり目でDeNAにも得点機が訪れたかも知れない。

 DeNAはミスがことごとく失点につながったが、シーズンを振り返ると、DeNAはシーズン143試合で失策66(セ2位)に対し、ソフトバンクは12球団NO・1の同38。DeNAも決して守りが悪いほうではない。しかし、ソフトバンクの数字が突き抜けているため、比較されると、DeNAの数字がつい物足りないと感じてしまう。短期決戦とはいえ、守りに好不調の波は少ない。年間通した守備力が日本シリーズでも少しずつ積み重なって勝敗に表れた気がしてならない。

 さらに与四死球を比較してみる。全6試合計でソフトバンク19個(1試合平均3・1個)、DeNA26個(1試合平均4・3個)でセ3位のDeNAがパ1位のソフトバンクより1個以上多い。守りでミスをしない、ムダな走者を出さないという基本部分でもソフトバンクに軍配が上がった。

 セ3位のDeNAは、抑えられる自らのミスを完璧にこなしてこそパ1位ソフトバンクと互角に戦える。裏をかえせば、ミスが上位より多く出るため3位になった、という見方もできる。

 DeNAは第6戦を取っていたら第7戦はどう転ぶか分からなかっただけにミスが悔やまれる。ソフトバンクは投打に豪快なイメージがあるが、攻守に細かい野球をきっちり積み重ねているからこその強さ。それが4勝2敗の結果となった。

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 MVPは1勝2セーブのサファテだったが、個人的に、影のMVPは高谷と甲斐にあげたい。盗塁を計2個許したものの、4つ刺した。特に第3戦の初回、高谷が1番桑原、2番梶谷が出塁後、二盗を連続阻止。第6戦の2回1死一、三塁から三振ゲッツーで白崎を刺した甲斐の2捕手がビッグプレーで投手をもり立てた。ホークスには千賀、武田、サファテ、石川、バンデンハークら縦に落差の大きい変化球を投げるハードな投手が多いが、投手に安心して投球させる体を張ったブロッキングは見事。DeNAの暴投2つとは対照的にソフトバンクの暴投は記録上ゼロ。バットではソフトバンク勢2捕手がそろって打率2割5分と合格点、DeNAは高城が同6割で好成績も嶺井、戸柱は守りで精いっぱいの打撃内容となった。

 もう1人、素晴らしいと思わせた選手がいた。ソフトバンクの5番中村晃だ。19打数2安打で打率1割5厘だが、四球が両チーム合わせてトップの7つ。筒香の5四球を上回った。第6戦の延長11回1死一塁、エスコバーから四球を選び結局、サヨナラの走者を二塁に進めた。四球を安打と同等と評価する球団も多い。中村晃は四球を安打換算すると打率3割4分6厘に相当する。CSファイナルステージ第3戦でも決勝2ランを放った「つなぎの5番打者」は、ポストシーズンでいい働きをみせ、貢献度はピカイチだったと思う。

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 DeNAは中継ぎの層の薄さが出た。CSでは雨で試合が流れた好影響で今永、浜口を中継ぎ登板させる選択肢があったが、日本シリーズでは第1戦に先発させた井納をその後、中継ぎ起用する作戦で臨んだと思う。DeNAは中継ぎ陣を整備できれば、来季は2位、いやリーグ優勝するだけのポテンシャルはある。

 いっぽう、ソフトバンクは嘉弥真、石川、森を挟みながらモイネロ、岩崎、サファテの「勝利の方程式」がしっかりできている。日本シリーズでの登板順も得点に応じて、シーズン通りだったと思う。

 DeNAは中継ぎの不安要素をラミレス監督のよく練り込まれた戦略で奮闘したが、最後は力尽きた。ラミレス監督は当然だがチームの長所短所を把握している。シーズン通して活躍した救援投手はパットンと山崎康の2人。日本シリーズでは6、7回のセットアッパーがコマ不足になると想定したのだろう。井納を中継ぎでフル回転させるため第1戦に1度きり先発させたと思われる。日本シリーズで先発は5枚必要。井納の後の中継ぎ起用を考慮すれば先発は第1戦しかなく、2度先発させたい今永、中4日登板が可能なウィーランド、ハマスタに強い浜口の全条件を考慮した結果、井納、今永、ウィーランド、浜口、石田、今永の先発ローテーションで臨んだのではないかと思う。答えが出てみるとラミレス監督が、いかに苦しい台所事情をうまく切り盛りしたかが分かる。細川や白崎の起用もハマるなど、今回のラミレス監督采配は投打ともさすがで、非常に勉強になる教材だった。

 ラミレス監督の試合後のコメントが重みを増す。

「これは僕にとってチャレンジ。弱点を見つけようにも見当たらない。分析しがいがある。完璧だから倒しがいがある」

(第6戦で白崎の指名打者抜てき)「僕の得意な意表を突く決断だった」

「何かが足りなかったというより、ベストを尽くして勝てなかった。ソフトバンクが強かったということ。ベストの決断をし、選手はベストの戦いをしてくれた。下を向く必要はない」

「選手には素晴らしい1年だったと伝えた。こういう形で負けはしたが、これは負けではない。得るものがあった1年だった」

 監督の好采配もさることながら最後に動くのは選手。選手の総力、チーム力が差となったソフトバンクの日本一だった。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。