ここにきて、阪神の評価が爆上がりしている。ヤクルトを追うのは? に評論家の多くが「阪神」と答えている。元々、チーム力はナンバーワンとされ、戦前は優勝候補の筆頭とされていたから、当然といえば当然。スタートで大きく出遅れ、強烈な借金が生まれたけど、いまは2位争いできるまでにきた。

借金返済まであとわずか。そういう状況で迎えるのがオールスターになる。阪神からは6選手が選出されているが、ここでそれぞれがインパクトを残せば、後半戦の勢いになって、さらなる上昇が期待できる。そういうケースは過去にもいっぱいあった。

例えば赤ヘル旋風。山本浩二、衣笠の2人が球宴を席巻し、広島の強さを証明した。門田、藤原が暴れまくった南海ホークスのグリーン旋風。これも昔、話題になった。

阪神にもある。江夏豊の9者連続奪三振。究極のピッチングは今もオールスターの語り草になっている。そして僕が震えたのが1978年7月25日に起きた奇跡のようなバッティングだった。主人公は掛布雅之、23歳の夏だった。

舞台は後楽園球場。僕も取材でここにいた。確か試合前、ベンチの近くのトイレで用を足していたら、あの長嶋茂雄が入ってきた。初めて見る生長嶋…。「おはようございます」と緊張で僕の声は震えていたが、「オハヨー」とあの甲高い声で返してもらった。ここからすでに興奮していたのだが、そののち、ピークが訪れた。

掛布が打つ、打つ、打ちまくった。1本目は日本ハムの佐伯から。変化球をライトに。2本目は阪急の佐藤義則のストレート。そして3本目が阪急の山口高志の変化球。まさかまさかの3打席連続ホームランを記録したのである。グラウンドを1周して、ホームベースのところで待ち構えていたのが王貞治。この光景は世代交代を印象付けるものになった。

掛布は翌年、初のホームラン王になるのだが、このオールスターの奇跡が大きく影響していたのは言うまでもない。全国の野球ファンに「阪神の掛布」を強くアピールできたこと。自信は掛布の体にみなぎっていた。

ここまでのことはなかなか実現できない。だけど、今回の球宴で阪神の6戦士には大きな爪痕を残し、全国にさらなるアピールをしてほしいと願っている。

すでに近本はそれができている。オールスターでサイクル安打を達成しており、あれで近本はたくましくなり、ヒットメーカーとしてのポジションを確立した。となると今年は佐藤輝! と僕は彼を指名する。

1978年の掛布は23歳だった。佐藤輝もプロ2年目の23歳。すでにファンから認知されファン投票での選出。ここで掛布並みのバッティングができれば、阪神の佐藤輝は球界の輝に認定される。オールスターの醍醐味(だいごみ)は、こういう若い選手の派手な活躍にあるのだ。

阪神の4番に座りながら、成績はまだまだ不十分である。ヤクルト村上、巨人岡本に比べれば、まだ劣っている。そこで後半戦に向かう前、ここで景気付けできれば、佐藤輝、そしてチームにとって、何よりの起爆剤になる。お祭り気分の球宴だがお祭り男になれば、後々に生きる自信を手にすることができる。だから佐藤輝に期待を寄せるし、彼ならできるという空気感が楽しみで仕方ない。

昔に比べれば、小粒になったとか、おもしろみがなくなったとされる昨今の球宴事情。しかし、今年はそれを変えてもらいたい。青柳、湯浅がどんなピッチングを見せてくれるのか。近本、中野がどれだけ多くヒットを打つのか。大山が打ち、そして佐藤輝が度肝を抜く大きな打球を放てるか。見どころはいっぱいなのだ。

これらがうまく運べば、阪神の後半戦はますます期待が大きく膨らむ。ここで得る勢いは一過性のものではない。それは過去の歴史に表れている。ここで「阪神旋風」が巻き起これば、ヤクルトを追う1番手になるのは間違いない。今年のオールスター、楽しみに待つことにしよう。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)

78年オールスターゲーム、掛布雅之はこの試合で3本目の本塁打を放ちMVP表彰
78年オールスターゲーム、掛布雅之はこの試合で3本目の本塁打を放ちMVP表彰