球界最年長監督がグラウンドを去った。阪神の岡田彰布である。最後の采配となった10月13日。敗戦のあと、スタンドに残るファンにあいさつすることもなく、静かにベンチから消えた。何で? どうして? あまり記憶にない終わり方だった。そのあたりのことも含め、岡田についての詳しい事情は、改めて記したいと思っている。
この日を境に、新たなタイガースに向け、事態は進みだした。14日付のスポーツ新聞各紙は「新体制」のことをニュースとして報じている。その中心は新監督に内定した藤川球児のこと。阪神では珍しい投手出身の監督になる。これは星野仙一以来で、果たして「球児の野球」はどういうものなのか。
そのヒントになる出来事が昔にあった。それは2008年か2009年だったか。もう15年くらい前のことで、対戦相手の記憶は薄い。そのゲーム、阪神は打線が爆発して快勝した。目立ったのは攻撃。試合後、取材していた僕は藤川球児に呼び止められた。
「内匠さん、コラム書くでしょ。今日のMVPは誰かわかりますか? それは平野さんです。そこをビシッと日刊スポーツで書いてくださいよ」。打つ方ばかりが目立った中、藤川球児が指摘したのが平野恵一の守りのワンプレーだった。
2008年、トレードで移籍してきた平野は新天地で二塁を守っていた。その試合、クローズアップされなかったけど、確かにピンチを救う守りを示していた。派手なゲームの中、埋没しがちなプレーを藤川は高く評価していた。「あのプレーで投手は救われる。守りの重要性が取り上げられるべきワンプレーだった」。藤川の解説は熱いものだった。
タイミングよく僕の横を平野が通った。番記者は取材していなかった。「あのプレーだが…」と切り出すと、平野は待ってましたとばかりに話し出した。
「本当にうれしかったんです。何がって、球児が飛んできて、今日のMVPは平野さんですよって言ってくれて…。タイガースにきて、一番うれしいことだった」。平野もまた熱い言葉を並べた。
この一連のやりとりでわかるように、藤川はやはり「守り」に重きを置く野球を目指すのだろう。「前任監督」の岡田に教育され、野球の王道である守りに比重を置く考え。岡田の考えを踏襲していく。昔の出来事を思い出し、それがわかった。
またトレードできた人間に対する気遣いもできる男であった。平野は外様。まだチームに溶け込んでなかった時期に、不動のクローザーが声を上げて、プレーを称賛する。これだけで平野は、どんなにうれしかったことか。そういう気配り、気遣いもできる。
正式に監督就任が発表された。「球児の野球」をどう言葉で表すのか。早く聞いてみたいものだ。【内匠宏幸】(敬称略)




