日本ハムのドラフト3位・大塚瑠晏内野手(22=東海大相模→東海大)のひとつの空振りに、私はとてもポジティブなものを感じた。
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日本ハムの新人選手が、この3月の時点でファームの公式戦に出場している。これから、挫折も味わうだろう、わずかな自信や希望を見いだし、ここから練習して練習して、泥にまみれてはい上がる生活が始まる。
失敗してもいい、そういう目で私は見ているのだが、失敗から学ぶ瞬間があれば、その敗北は選手の栄養になる。
大塚の第2打席に、こんな場面があった。初球はインローの真っすぐを見逃してストライク。2球目は外のカーブをやはり見逃して2ストライクと追い込まれた。マウンドにはヤクルトの高梨。1軍実績のあるプロ13年目の右腕だ。
3球目、真ん中やや外寄りのフォークを空振り三振。1軍の投手がルーキーを、赤子の手をひねるかのごとく3球三振に仕留めた。ただそれだけのことだ。現時点でそれだけの差がある。要約すればそれで済む話なのだが、私は空振りした直後の大塚の顔をじっと見ていた。
どんな顔をするんだろうと。私は捕手だ。あっけなく打ち取られた直後の打者の顔から、その心理状態を推し量る習性が身に着いてしまった。自然と大塚の顔を見ると、やや宙を見上げながら「やられた! 振らされてしまった」と、顔に書いてあった。
これはまったくもって私の一方的な想像で、本当は違う感情が大塚にはあったかもしれない。もし、私の指摘が的外れならば、いずれ大塚と話をする機会があるなら、しっかり謝りたいと思う。仮に、私の想像がそんなに大きく外れてなかっとしたとして、この流れで続けさせていただきたい。
振らされてしまい、バットが空を切って、はじめて低めボール球のフォークを振ってしまったと気づく。なんでこんな低めを振っちゃったんだと。追い込まれているだけに、頭の中には勝負球のフォークがあったはずだ。頭では低めフォークをケアしていながら、いざ打席でプロの、それも1軍投手の決め球の軌道を見せられると、振ってしまうのだ。振らされてしまうのだ。
その、強い悔恨の思いが、大塚の顔には如実に浮かんでいた。私は、つぶやかずにいられなかった。「打って得る自信も大切。しかし、この振らされてしまったこの瞬間こそ、今味わうべき屈辱だぞ」と。
東海大相模から東海大を経て、プロ野球に堂々の支配下指名で入団した。野球で言うならエリート中のエリートだろう。高校野球、大学野球でも、この日と同じように変化球を振らされた三振は経験しているはずだ。
しかしアマチュア球界においては、同じ状況で同じ失敗は重ねないからこそ、プロのスカウトから高い評価を受け、こうしてプロの仲間入りをした。つまり、一定の学習能力はあるということだ。その大塚をして、この低めボール球のフォークを振らされたところに、プロのレベルの高さがある。
難なく振らされる。それがプロの投手であり、プロのバッテリーの攻め方だ。大塚に本来のスイングをさせない厳しさ、抜け目の無さということだ。これは、この試合だけのたまたまの現象ではない。これから大塚がバットを置く時まで、ずっと続く投手、あるいはバッテリーとの飽くなき読み合いのスタートだ。
高梨の低めフォークの軌道を脳裏に刻んだとしても、果たして同じ状況で、次に対戦した時、バットは止まるのか、と聞かれたら、恐らく止まらないだろうと、私は予想する。
この切れ味鋭い勝負球を持つ投手の攻略に、プロの一流バッターは心血を注いで挑んでいる。その一端を、プロに入りたての3月下旬に味わうことができた。その衝撃は計り知れないだろうが、それを知っているのと、ベンチから見ているのとでは、雲泥の差がある。得難い経験だ。
振ってわかることがある。追い込まれて、分かっていても振らされてしまうフォークの軌道と言い換えることができる。同じ失敗をこれから何度も経験するだろう。その都度、わずかばかりに反応することができれば、少しずつ対応力が磨かれ、いつか、バットが止まる。その布石と考えればいい。
なお、ここからは蛇足となるが、もしも、この日私が高梨とバッテリーを組んでいたとしたら、次の打席で大塚には決め球としてフォークは使わないだろう。
追い込んでから、低め真っすぐで見逃しを狙ったと思う。低めフォークを空振りした打者心理を踏まえ、フォークへの意識が強まる状況を再現し、そこでフォークで行くとみせかけて真っすぐでバットを振らせない。今度は、振らせない悔しさで仕留める、ということだ。
こうして文字にすると、ものすごく性格が悪いように感じるし、実際、そういう腹の探り合いの中でプロ生活を生きてきたんだと実感する。とても、自慢できることではないのだが、それが経験を積んだプロのバッテリーの一日の長というものだと考える。
その屈辱的な抑えられ方でもまれにもまれ、打者は精神的にタフになり、ある時は読み合いに勝ち、またある時は割り切って勝負球に懸けてマン振りするようになる。
小柄だが、パンチ力があるスイングをしている大塚には、当てて走るような小さなバッティングではなく、ミート力と強い打球で右中間を破るライナーを打てる打者になってほしい。
あの悔しそうな顔が、いつしかはじける笑顔になる日を、私は楽しみに待ちたい。(日刊スポーツ評論家)





