よく勝った。勝つことができた。連敗に苦しむヤクルトだが油断はできない。この日も本塁打を放った19歳のスラッガー村上宗隆の存在もそうだが劣勢にも何とかしてやろうというムードがうかがえる。典型は8回の攻撃だろう。

阪神1点リードの8回表。阪神のマウンドには救援陣でいま最も信頼できるジョンソンが上がった。だが先頭の代打・宮本丈が左前打をマーク。これを犠打で送り、1死二塁に。ここで打順は2番の青木宣親に回った。

ここからはヤクルト自慢のクリーンアップに続く。正念場だ、と思った瞬間。青木の1ボールからの2球目で宮本がスタートした。完璧なタイミングで三塁セーフだ。「梅ちゃんバズーカ」の捕手・梅野隆太郎が今季、単独で許した初の三盗になった。

その後、青木を歩かせ、1死一、三塁。最大のピンチになったがここをジョンソンがしのいだ。見事な投球だったが、やはりあの盗塁が気になった。あんなところで走るか。三塁に。普通。試合後、ヤクルトの外野守備走塁コーチの河田雄祐に聞いてみた。

河田は緒方孝市が率いて3連覇中の広島にあって16、17年に三塁コーチを務めた男だ。重盗などの作戦で阪神を苦しめ、広島の機動力野球復活のカギを握った男として知られる。いまはヤクルトの三塁コーチだ。

「そうですね。いいスタートを切ってくれましたね。普段、二盗のサインもあまり出ない選手なのに」。河田はまず宮本を褒めた。確かに宮本がこの日までに決めた盗塁は1つだけ。バンバン走る選手ではない。

だが言うまでもなく、そのサインを出すヤクルト・ベンチがおそろしい。その辺り、河田ははっきりとは言わないが、こんな言い回しでヒントのようなものを口にした。「まあ足がね。割とスッと上がったりするんでね…」。

ジョンソンのフォームについてだ。外国人投手はクイックモーションが苦手というのは昔の話で、現在、来日する投手は普通にする。それでも日本人投手の精密さに比べれば差はあるのか。打ち崩しにくい投手だからこそ、その点を攻めてくる可能性は高い。

「あの場面をつくって得点できなければ仕方ない。いい形はつくれたんで、また明日ですね」。河田はそう言った。阪神バッテリーはよほど気を引き締めていかなければならない。(敬称略)

阪神対ヤクルト 8回表ヤクルト2死一、三塁、雄平から三振を奪いガッツポーズするジョンソン(撮影・上田博志)
阪神対ヤクルト 8回表ヤクルト2死一、三塁、雄平から三振を奪いガッツポーズするジョンソン(撮影・上田博志)