「なんか感じがよくないですね。調子が悪いのか何かあるのか…」。日刊スポーツ評論家・緒方孝市と見ていた第1クール、宜野座のブルペン。緒方がそう口にした視線の先には高橋遥人がいた。3連覇を果たした広島の指揮官として対戦し、その実力を知るだけにひと目見ただけで不調を感じとったのだろう。

確かに、そのときは素人目にも右足の着地と左腕を振るタイミングがほとんど同じで、いわゆるタメがない様子だった。そんな不調が故障につながったのか。貴重な左腕として先発スタッフの有力な候補だった高橋、開幕1軍が危ぶまれる状況になったようだ。

ここで書きたいのはそのアクシデントを大事にしてはいけない、チームとして動じてはいけないということだ。悲願の優勝実現にはスタートダッシュが肝心。考えられるフルメンバーで開幕に臨みたいと思うのは指揮官・矢野燿大でなくても当然だろう。だが…。

「投手は何人いてもいいんだから」。緒方もそうだったが過去に取材した監督たちは皆そういう話をした。先発できる投手は限られているし、1軍枠もある。30年近く前にその言葉を最初に聞いたときは「何人でも…と言ってもそうはいかんやろう」と、一瞬、考えてしまった。

取材歴が長くなり、その言葉の意味が分かってくる。先発でもブルペンでも構想に入れていた投手が故障などで使えなくなることは少なくない。そんなとき「ではアイツで」と投手コーチが代役の名前を出せるような状況にしておくことがシーズンを勝ち抜いていくための条件ということだ。

高橋が出遅れるとしてもチームとして「大丈夫」と言えるようにならなければいけない。もちろん高橋個人にすればチームというより自分のために早く、確実な復帰を目指すのは当然だ。同時に他の投手にとっては“チャンス”。それがプロだろう。

投手陣は豊富なチーム状況だが「誰かがいなくなれば誰かが出てくる」というムードにならなければ、やはり、勝てない。極端な話、開幕時と秋口で顔ぶれが変わっていることだってあるだろう。矢野も口にする「チーム一丸」には、そういう意味もあるはず。早い時期の故障者をチームの糧にして、しっかり開幕に向かってほしい。鳴り物入りルーキー佐藤輝明の大活躍があった日だからこそ、余計にそう思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)