勝利を収めた後、グラウンドに一礼。ベンチに下がるとき梅野隆太郎は客席に向かってサラリと手を振っていた。ファンへの気配りが自然に出る。チームや選手のいいところばかり書く気はないけれど、やはりナイスガイだと思う。

誤解を恐れずに表現すれば“阪神らしくない選手”とでも言おうか。12球団でも人気が高く、熱いファンの多い阪神。選手側からすればうれしいけれど気を使うことも多くなる。行動はもちろん、発言も慎重にならざるを得ない。ネット社会でもあり、普段の振る舞いからピリピリする。

取材に対するコメント1つにしてもいまひとつ面白くなくなる。状況を分かっていない2軍選手の間は結構、面白かったのに1軍に上がるとおとなしくなるケースを見てきた。いわゆる「悪目立ち」をしたくないのだろう。その段階を突き抜け、思ったことを話せるようになるには長い経験が必要なようだ。

その点、梅野は新人時代から今に至るまで、ごく普通に思ったことを話すタイプと感じている。重ねて変な表現で申し訳ないが、これまでの取材経験から「パ・リーグっぽい選手だな」と思った記憶もある。

そして今季。好調なチームにあってこれまで以上に気迫のこもったプレーが目立つ。それがあふれ出てヘッドスライディングしたときなどに指摘すると決まって同じフレーズを明かす。

「あそこは気持ちが出てしまいましたね」

どんな選手でも「やってやる」という気持ちはあるはずだが、それがそのまま好プレーにつながるとは限らない。気持ちと結果が連動するのはレベルが上がっている証明だろう。12球団でもトップクラスの捕手なのは間違いない。

この日の逆転勝ちでも投手陣を必死でリードしていた。打ちあぐんでいた中日ロドリゲスから5回に左前打。この試合で唯一、先頭打者の出塁に成功すると刺されたとはいえ盗塁を仕掛けて揺さぶった。正捕手、中心選手の仕事だ。

その梅野がこの日、国内FA権を取得した。欲しい球団は多いだろう。もちろん阪神にとっても残留は重要課題だ。では「阪神でやろう」と決断させるために必要なことは何か。契約内容は当然として重要な条件は「優勝」だと思う。選手はレベルが上がれば上がるほど勝てないチームに魅力を感じなくなる。梅野残留のためにも今季こそ優勝だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対中日 最後を締めたスアレス(左)とタッチを交わす梅野(撮影・清水貴仁)
阪神対中日 最後を締めたスアレス(左)とタッチを交わす梅野(撮影・清水貴仁)