この時期、よく思い出す出来事がある。17年のCSファイナルはシーズン3位のDeNAがリーグ優勝した広島を下した。DeNAが日本シリーズ進出を決めたその夜。広島担当の助っ人で出向いていたこちらは記者数人とお好み焼き店で軽く打ち上げをしていた。

仕切りの向こうにも数人のグループが入ってくる。何げなく見るとDeNA関係者。ほどなくして知り合いの女性が加わった。すると少し酔ったのか、その女性がこんな話を始めたのだ。席が近いので自然に耳に入ってしまう。

「でもね。このクライマックスって言うの? この制度、私、おかしいと思うのよね。だってリーグ優勝したチームが日本一を決める戦いに出られないんでしょ? おかしいよね」

思わず、こちらの記者たちと顔を見合わせてしまう。いやいや。今、あなた、どこのチームの人たちといっしょにいると思っているのか。関係者たちも少し静かになってしまった。

この女性に限れば、いろいろと分かっていなかったのだろうと想像するけれどCS反対論は評論家やファンにも少なくない。誰にも意見はあるし、それは当然のことだ。しかし決められたルールの下で懸命にプレーし、勝ち上がってきた選手が何も言われることがないのも事実。現状の決まりがそうなっており、それに従って戦っているのだ。

コロナ禍の今季。陽性者数を理由に試合を取りやめるケースがあった。セ・リーグにおいて自軍の理由で中止しなかったのは阪神と中日だけだ。阪神は2位に浮上してきた8月上旬のタイミングで大山悠輔、近本光司、中野拓夢ら離脱者が出た。それもあって8連敗。一気に最下位転落も覚悟する苦しい時期だった。

コロナ問題ではどういう場合に中止にするかという明確な規定はなかったと理解している。それでも感染者が増え、試合できない状況になったからやむなく中止した。そういうことだろう。だから例えば巨人が「ズルかった」のかと言えばそんなことはない。阪神には不利だったかもしれないが、それも相互理解に基づいてのことである。

DeNAとの3試合は手に汗握る熱戦だった。ともによく戦ったと思う。そこを勝った阪神は借金からの進出を恥じることはない。堂々と戦い、勝利の女神がほほ笑めば日本シリーズに進めばいい。再びの熱戦を期待している。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)