15年ぶり阪神監督復帰となる岡田彰布の一挙手一投足に沸いた高知・安芸の秋季キャンプが約3週間の日程を終えた。もちろん岡田は報道各社の取材に応じたのだがそこで面白いというか「現実主義者・岡田」の真骨頂を感じたような気がする。

「キャンプのMVPは?」というテレビ局からの質問に答えたときだ。テレビ局と書いたが最近のキャンプ取材ではスポーツ紙などの活字メディアからもその手の質問は出る。以前はそれほどでもなかったと思うが最近では恒例になっている様子。それに対し、岡田はこう応えた。

「いやいや。MVPなんて、そんなんは実戦もまだやってないしね。おーん。みんなそうやって一生懸命練習やってんだから、MVPとかなしに、そら、選手全員でしょ」

実戦をしていないのだから誰がMVPだとかそんなこと言えるはずはない。いまは練習するときではないか。そうは口にしなかったけれど、岡田にすれば「練習にMVPも何もないやろ」ということだと思う。

同意したい。○○が全力疾走していた、○○がよく声を出していた-。だから○○がキャンプのMVP-。正直、そんなことにあまり意味はないと思う。そもそも当たり前のことばかりではないか。そう言ってしまえば身もふたもないかもしれないけれど。

もちろん世の中には結果以外でも評価されることはある。それでも、やはりプロは結果だ。その結果はまだ出ていない。まだ練習の段階だからだ。だからこそ岡田は「みんな一生懸命練習やってんだから、MVPとかなしに選手全員でしょ」と付け加えたのだと思う。せんえつな表現で申し訳ないけれど、そのあたり、25日で65歳になる岡田の指導者としての“成長”だとも感じる。

守備を中心に自身の野球理論を理解させ、実践させようと努めた秋季キャンプだった。侍ジャパンから途中参加の佐藤輝明に対しては期待するがゆえ、体力不足など物足りなく感じていることをズバリと指摘することも。

2月の宜野座キャンプから本格的に始まる岡田の戦いである。そこへ向け、佐藤輝はもちろん、選手みんながどんな準備をして来春、再び集まるのか。その結果として秋に「アレ」が実現したときこそ、岡田は胸を張って「MVPは○○よ。そんなん!」と言い切るはずだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)