トントントントン…午前10時。日体大のクラブハウスから、野菜を刻む音がこぼれてきた。キッチンに立っていたのは、日体大の古城隆利監督(53)。大根、ニンジン、ゴボウ、蓮根、里芋、ネギ、こんにゃく、豚肉。手際良く食材を切っていった。
6月19日、日体大健志台野球場では、大阪桐蔭を招き、東海大菅生、春日部共栄と変則ダブルヘッダーで練習試合が行われていた。この日、日体大硬式野球部の練習は休み。大学施設を貸すため、マネジャー5名に、大阪桐蔭のOB2人が休日返上で、接客対応などの手伝いに来ていた。古城監督は「頑張ってくれていますからね。食事だけでも、おいしいものを食べて欲しくて」と、具だくさんの豚汁を振る舞った。
男の料理といっても侮れない。4種類のだしを使い、隠し味に、ごま油、仕上げにニンニクとショウガ。卓上のIHクッキングヒーターこんろでコトコト調理。「古城監督特製、豚汁」が完成した。おいしそうに、豚汁を食べるマネジャーを横目に、「私も野菜を切っている時はいい気分転換。リフレッシュできるんですよ」と優しく笑った。
闘将の趣味に料理が加わったのは、約2年前。親交のあるロックバンドDEENのボーカルで、そば好きで知られる池森秀一さんの影響を受け、乾麺で温かいそば作りから始まった。
昨年はコロナ禍で、大学周辺の飲食店が休業。授業もリモートで行われる中でも、資料作りなどでグラウンドに来る、通いのスタッフ、マネジャーのためにお昼ご飯を調理するようになった。「おいしいと言ってくれると、また食べさせたくなるんですよ」とYouTubeでレシピを検索。チャーハン、スパゲティ、オムライスとレパートリーはどんどん増え、マネジャーたちからも「おいしい」と大好評。現在はチームアカウントのインスタグラムで「監督さんクッキング」と題し、紹介するほどだ。
冷たいお弁当よりも、温かいご飯。そして何より古城監督の愛情たっぷりの料理で、マネジャーやスタッフのやる気もアップ。青木来夢マネジャー(4年=麻布大付)は「本当、監督さんのご飯はおいしい。いつも楽しみにしています。もっと頑張ろう、と励みにもなるんですよ」と話す。古城監督とマネジャー、スタッフの心をつなぐ「監督さんクッキング」。秋は、リーグ優勝への原動力になるはずだ。