音声アプリClubhouseの出現により、音声SNSに注目が集まっている昨今。「声で届ける」という価値に着目し、ラジオ配信を始めた野球部がある。神奈川県松田町にある立花学園だ。ラジオ配信用の無料アプリを使用し、女子マネージャーの4人が交代でDJを務めている。その名も「ドキドキマネのワクワクRADIO」だ。


■コロナ禍で失われつつある「人とのつながり」。声を使って


配信は週2回。放送は約3分間と短い。コンパクトサイズのオンエアの中で、野球部の活動報告や、選手の紹介、野球少年へのメッセージなど、野球普及につながる内容をテーマにしている。

発案者である教員の吉田大育コーチ(28)に聞くと「HimarayaやVoicy、Podcast、Stand.fmなど、最近は音声配信アプリが次々と誕生し『次は耳で聴く、音の時代が来る』とミーティングで話をしていたんです。女子マネブログを1年以上続けてきたので、次はラジオかなと。声で伝える技術や、発声法は球場アナウンスにも生かせます。我が校の放送部(委員会)が2017、18年に県大会で賞を取ったことも刺激になりました」。

スピーチ力を磨くだけではない。コロナ禍で失われつつある「人とのつながり」も、声に込めている。収録を行った長谷川愛心(あこ)さん(2年)は「野球部を応援していただいている方々が球場やグラウンドに来てもらえない状況が続いています。これまでツイッターやブログで活動を発信してきましたが、文字だと感情が伝えにくい。声は人柄も出るので、あえて『素』を出して収録しています」と話す。

配信で気を付けていることは<1>敬語の使い方 <2>聞きやすいテンポ <3>息を合わせるところ、の3点。まずは限定放送として配信を増やし、練習の場にしていく予定だ。


■「ながら聴き」のメリット。話題のClubhouseを活用する選手も


立花学園は2017年夏から4度8強入りするなど、神奈川では徐々に力をつけてきているチームだ。昨秋は県3回戦で東海大相模に逆転負けしたが、IOTを使ったチーム強化で、壁を破ろうとしている。例えば、MLBやNPBが導入しているラプソードで成長度を数値化したり、モータス、ドローンなどの最新機器で現状把握をしている。ツイッターのフォロワーはこの1年で倍の3000近くまで増え、校名は全国に広がりつつある。選手たちの夢は、1998年の平塚学園(記念大会で県から2校出場)以来の「西湘地区から甲子園」だ。

志賀正啓監督(34)はネットリテラシー教育を行いながら、選手たちの知的好奇心を伸ばす指導を心がけている。ラジオ配信の可能性について聞くと「試合後のインタビューはもちろん、選手が自分の言葉で伝えるというスキルは、大学入試の面接や、就職試験、会社でのプレゼンにも生かせる。今後は、野球ノートとは別に、音声アプリに試合の反省を声で収録していくことも検討している」と前向きだ。

聴く側にとってのメリットもある。仕事での運転中や、家事・育児中、勉強中、トレーニング中など「耳から情報を入れる」ということは「ながら聴き」ができ、時間の有効活用につながる。チームの中にはClubhouseを活用する選手が現れるなど、立花学園のイノベーションは止まることを知らない。【樫本ゆき】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「いま、会いにゆきます」)

立花学園野球部発の音声配信「ドキドキマネのワクワクRADIO」が再生回数を伸ばしている
立花学園野球部発の音声配信「ドキドキマネのワクワクRADIO」が再生回数を伸ばしている