82年夏以来38年ぶりに甲子園に出場した帯広農(北海道)が、明治神宮大会準優勝の高崎健康福祉大高崎(群馬)を4-1で破り、甲子園初勝利を挙げた。2回に2点を先制し、3回1死三塁から4番前田愛都(3年)のスクイズで3点目。守備でも3回無死一塁、5回無死一塁、6回無死一塁で併殺に打ち取るなど堅守を続け、“4アウト”で敗れた38年前のリベンジを果たした。

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身の丈に合った堅実野球で、帯広農が大きな1勝をつかみ取った。大会こそ違えど、21世紀枠のチームが、地区代表チームに勝つのは15年松山東以来5年ぶり。主将の井村は「全員で戦って、勝てて良かった。僕たちはどことやってもチャレンジャー。相手を意識し過ぎることなく、自分たちの野球を出すことができた」と笑顔で振り返った。

こつこつ全員で搾り出す“乳搾り打線”がジャブのように効いた。2回に連打で2点を先制すると、3回1死三塁から4番前田のスクイズで3点目。相手が失策で動揺するスキを突き加点した。前田は「とにかく1点ずつ。4番でもチームの役目を果たすのが僕らの野球」。4回でプロ注目の左腕、下慎之介(3年)をマウンドから引きずり降ろすと、守備でも、ピンチで3併殺を記録し、流れを引き渡さなかった。

大半の選手が高校卒業後に野球をやめ就職や家業の農家を継ぐ。本格的に野球を続ける選手は少ない。そのため、コロナ禍で5月20日に夏の甲子園中止が決まった際、3年生部員の大半が引退を考えた。主将の井村も、その1人だった。6月上旬に北海道の独自大会開催が決まると水上が主将を説得。「北海道で1番になって終わろう」。前を向きなおした主将を中心に、再び前へ踏み出した。

100周年の同校に、新たな歴史を刻んだ。初出場時は4アウト事件もあり2-5で敗戦。それから38年、甲子園での最多得点を奪って白星をつかんだ。井村は「帯農の伝統を受け継ぎ、最後に甲子園で勝てて良かった」と喜んだ。

昨年のNHK連続テレビ小説「なつぞら」のモデルで、キャッチコピーはヒロインを演じた広瀬すずにあやかり「すず野球」。意味は「スピード」「スマイル」「素直さ」の「す」、「頭脳的」「ずばぬけた物を持とう」の「ず」だ。連打、スクイズに要所での堅守。派手さはないが、蒸し暑い聖地の空に、さわやかな風が吹いた。【永野高輔】

◆帯広農の前回甲子園 82年夏に出場。初戦の2回戦で益田(島根)と対戦し、2-5で敗れた。この試合では前代未聞の「1イニング4アウト事件」があった。9回表、益田の攻撃は2死一塁から二飛で3アウトだったが、スコアボード表示が2アウトのまま続行。次打者の三ゴロでチェンジになった。試合後、大会本部が陳謝し、4アウト目は記録から抹消された。

◆主な農業系高校の甲子園勝利 18年夏に吉田輝星投手を擁して準優勝した金足農(秋田)が、通算13勝している。ほかには日田林工(大分)7勝、御所実(奈良)5勝、嘉義農林(台湾)5勝、新発田農(新潟)3勝など。

▽82年夏の甲子園出場時の左腕エース加藤浩一さん(56) 素晴らしい試合でした。笑顔で楽しそうにやっているのが、とても印象的でした。昨秋は1度も試合を見られず、初めて見たんです。よく打ちますね。そして守りも良い。2年生も活躍し秋も楽しみです。今度は円山に見に行きたいです。