勝者のメンタリティーを植えつけた能代松陽が、11年ぶり4度目の頂点に返り咲いた。先発のエース三浦凌輔投手(3年)が9回を6安打3失点(自責2)の完投。聖地行きの懸かった大一番で、141球の力投を演じた。春は県8強止まり。夏本番を前にメンタル強化に取り組んだ。勝負どころでも動じることのない「真の強さ」を証明し、秋田「夏の陣」で巻き返し、優勝で結実させた。「日本一」を目標に無限の可能性を秘めたナインが、夢舞台に乗り込む。

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右手人さし指を夏空へと高く突き刺し、エース三浦は狂喜乱舞の輪に吸い込まれていった。9回2死一塁。カウント2-2。サインに1度首を振り、2度うなずく。最後は137キロ直球で空振り三振。141球の力投をみせ、チームを11年ぶり4度目の頂点へと押し上げた。苦楽をともにしてきた仲間もマウンドへ一斉に駆け寄り、歓喜の瞬間を分かち合った。

三浦 最高でした。負けても勝っても(夏の県大会は)最後なので、思い切り投げることができた。

背番号「1」をつける責務を全うした。初回に1点を先制され、3-1の5回2死二、三塁からは同点の適時三塁打を許す。「立ち上がりが悪かった」。一瞬、表情が曇ったが闘志は消えなかった。6回以降は2安打投球。7回には自己最速にあと1キロまでに迫る143キロをマークし、三塁すら踏ませない。カーブ、チェンジアップなど緩急をつけながら、粘り強く打たせて取った。「疲労は取れていて良い状態で臨めた。低め低めを意識できていた」と汗をぬぐった。

勝負師魂を胸に刻んだ。春の県大会で準々決勝敗退後、選手らはメンタル強化に取り組んだ。練習前の約30分、長い時で1時間ほどコラムを読むことを日課とした。手に取ったのは能代商時代、12年夏の県3連覇を目指した先輩たちが描かれたものだった。大舞台で力を発揮するためには? 逆境に立たされた時の気持ちの持ち方は? など。チーム内でミーティングを繰り返しては意思疎通を図った。主将の田中元輝捕手(3年)はその成果を実感する。

「気持ちの部分で大きく成長できたと思う。勝負にかける思いが、チーム内で強くなっていた」

準々決勝以降は3戦連続で逆転勝ち。一発勝負で負けない強さにつながった。

「このチームはまだまだ強くなっていく」。工藤明監督(46)はナインが秘める可能性に大きな期待を寄せる。日々の練習から選手、指揮官が口にするのは、「日本一」の3文字。田中主将は「まだ通過点。日本一を目指して甲子園で勝ち上がっていきたい」と決意をにじませた。自信を胸に、「能代松陽の夏」はこれから本番を迎える。まだ、スタートラインに立ったばかりだ。【佐藤究】

○…能代松陽は13年に能代北と能代商が統合して節目の10年目を迎えた。能代商時代は11年夏の甲子園で県勢14年ぶりの初戦突破を果たすなど、この年は甲子園2勝をマーク。夏は3度の甲子園に出場している。現校名では初優勝を飾った。

<2年連続決勝で涙 秋田南>

秋田南は2年連続決勝進出も春夏通じて初の甲子園出場はならなかった。エース塚田将正投手(3年)をケガで欠き、先発は背番号「11」の伊藤真向斗投手(2年)が大役を担った。だが、伊藤をもり立てるはずのバックが2回に2つの失策などで1点を献上。3-3で迎えた5回には2番手中山蓮翔投手(3年)の暴投で勝ち越しを許すなど、勝負どころでのミスが最後まで響いた。石川聡監督は「エースを欠き、正捕手を欠きチームはボロボロ。そんな中でチームは力を結集してよく戦ってくれた。だが、エラーから始まった失点が重くのしかかった」と振り返った。