日本高野連の宝(たから)馨会長(65)が日刊スポーツのインタビューに応え、競技の普及、コロナ対策などの課題解消へ強い意欲を示した。就任1年目は徹底した現場主義を貫き、現状把握に努めた。「夢と希望を与える高校野球でありたい」と決意も述べた。【聞き手=柏原誠】

   ◇   ◇   ◇

その数、およそ150試合。宝会長はこの1年、いつも高校野球の現場にいた。「京大の伝統である現場主義で私は研究を進めてきた。現場が大事。現場に行けば分かることがある」。グラウンドを見つめ、各都道府県の関係者と会話し、硬式、軟式問わず高校野球のリアルに触れてきた。

宝会長 各地方がどんな球場でやっていて、連盟にどんな人がおられて、どう活動しているか。一生をその地区の高野連にかけている人もいます。現場の悩みとして審判員の確保が大変、いい球場があるが高くて使えないとか。入場料の設定も県によって違う。それと選手の動き。試合前のノックから見るが各学校の雰囲気の違い、女子部員も交じっているなとか。スパイクの色も見ていました。

全国各地を訪れる中で、各地区の高校野球関係者の熱意を知った。たとえば夏に訪れた大分では高校野球川柳を公募して、大会の冊子に掲載している。

宝会長 そういう努力を一般の人に分かってもらえて、野球っていいなとか、県の高野連も頑張っているなとか、野球に親しめるようなことをやっているんだなと伝わって、野球を愛する人がさらに増えてくれるといいんですけどね。

日本高野連が11月、12月の2度にわたり2泊3日で開催した「甲子園塾」にもフルで参加した。若手指導者の育成を目的とした講習は3年ぶりの復活。初めて経験する宝会長は、全国から集まった指導者と毎日、寝食をともにした。座学だけでなくグラウンドにも毎日出て、特別講師や受講者と会話を交わした。

宝会長 就任前は高野連の仕事ぶりを知らなかった。甲子園大会をやっているだけではない。自分の組織ですが、感心した。審判講習をやり、若手指導者の研修もやる。各都道府県が野球を普及する活動もやっている。野球を指導してきた身としても勉強になったし、自分が若いときにこうやって学べていたらなと思った。私自身も会長として学びました。

昨年は、3年目に入った新型コロナとの戦いで大きな変化があった。センバツでは出場辞退や大会途中での棄権があったが、夏は49代表が甲子園の土を踏み、全48試合を完遂。集団感染したチームの初戦を最後に回し、陰性なら登録外の部員でも出場可能という異例の対応をとった。

宝会長 昨夏がいい例になったと思う。試合まで時間があるし、陰性者だけでチームを構成したらいいんじゃないかという話をして。せっかく勝ち抜いてきたんですからね。チームが辞退することは避けたい。春のセンバツは今までの経験をもとにやる方向です。もちろん政府や兵庫県の方針があるので、その枠内でのことですが、できる限りのことをやるということ。

野球という国民的スポーツのコロナ対応には常に視線が注がれている。甲子園は世間の注目度も高い。

宝会長 野球は(常に)体と体がぶつかるコンタクトスポーツではない。広い空間でやるのでグラウンドの中で感染する可能性はほかの競技より低い。競技の特性に加え、甲子園は高校生たちの夢ですから、何とかかなえてあげたいという思いです。

野球人口減少の食い止めも継続的なテーマになる。高校の硬式野球部員は8年連続で減った。高野連加盟校も前年から33校減。とくに地方や公立校では連合チームが増え、チーム編成も苦慮。少子化の波には、あらがえない。

宝会長 生まれる赤ちゃんの数は絶対的に減っている。それに応じて野球部に所属する中学生、高校生が減っているのも確か。ただ、人口比で言うとそこまで下がっていないんじゃないかとも思う。スポーツは多様化していて個人でできる新しい五輪種目もできている。スケートボードとか。9人集まらなくても個人でできる。そういう競技をやりたがる人が出てくるのは仕方ない。十何歳で金メダル取れるわけですしね。

スポーツ用品メーカーのSSKとSNS配信している審判講習ビデオが、中国やベトナムなど海外から反響があり、翻訳版を望む声が届いていると聞いたという。競技人口を増やすには指導者を含めた「大人」の育成も不可欠だ。

宝会長 普及で言うと、選手に野球を教える指導者だけじゃなくて、試合をするために審判がいる。SSKさんは最初はあまり意図していなかったかもしれないが、世界的な野球の普及に貢献しておられる。野球を支援してくれる大人も補強していかないといけない。それと女性ですよね。

連合チームの増加が示すように、学校ごとの部員数の格差が広がっている。実力差にも直結している。部員数の偏りは是正すべきなのだろうか。

宝会長 私立学校に行きたいのは、そこのチームに魅力があるからだと思う。監督さんがいい、伝統がある、一定のレベルに達している、甲子園も近いとか。ただし、部員が100人いて試合に出られるのかという問題がある。自ら数を増やさない学校もありますよね。公立で人数が少ないから、隣の私学から何人かくれというのは無理。その生徒はそもそも公立に行きたいわけじゃないし、学力的に行けないかもしれない。そういうアンバランスは仕方ないのかもしれない。

会長として2年目を迎えた。高校野球がどうあるべきを最後に聞いた。

宝会長 以前、川淵さん(サッカー協会相談役)が高校野球のことを、最も生徒に夢と希望を与えるスポーツだとおっしゃっていたらしい。サッカー業界の人もそう思ってくれている。高校野球が引き続き、夢と希望を若者に与えるスポーツとしてあり続けたいと思う。道具代が高い、グラウンドがない、選手が集まらない。そういうところを解消していきたい。高校で甲子園を目指して切磋琢磨(せっさたくま)して、たとえ甲子園に出られなくても、また大学、社会人、プロで続けてくれたらいいですね。

◆宝馨(たから・かおる) 1957年(昭32)2月12日生まれ、滋賀県彦根市出身。西宮北高-京大工学部。京大大学院工学研究科の元教授で、同大学防災研究所の所長も務めた。水文学、防災技術政策などが専門。野球選手としては投手や捕手でプレー。81~82年、13~14年の2度、京大野球部監督を務めた。21年12月、八田英二氏に代わり第8代の日本高野連会長に就任。