広陵(広島)・真鍋慧内野手(3年)に「風」が吹いた。今夏初戦で走者一掃の3点二塁打。浜風の影響を受けやすい高い飛球で、外野手を惑わせた。ドラフト上位候補に挙げる阪神など12球団関係者に強烈なインパクトを与えた。

    ◇    ◇    ◇  

5秒、6秒…。青空に打ち上がった白球が落ちてこない。6回2死満塁。広陵・真鍋の大飛球は風に揺れながら、左中間の奥に落ちた。滞空時間6秒2。3人の走者が次々とホームインし、4-3と逆転した直後に、一気にダメ押しの3点を奪った。息詰まる接戦を広陵のペースに変えた。

「少しこすったけど、ヒットになったのでよかったです。もっとしっかり芯でとらえて、いい打球を飛ばしたいですね」 そう苦笑いしたが、漫画「ドカベン」の「通天閣打法」のような大飛球こそが、アーチストの証明だ。今大会は台風の影響で、甲子園名物の浜風とは逆の風が吹き続けていたが、真鍋の打席では、右から左への従来の風がやや強めに吹いていた。浜風は上空ほど、不規則に舞う。左翼手が落下点を見誤るのも無理はない。高校通算62発の長距離砲にしか打てない“快打”だった。

広島大会から不振が続いた。OBの元阪神監督、金本知憲氏の助言を受けるなど試行錯誤。大阪入り後もふさぎ込み、中井哲之監督(61)に「注目されすぎて少しかわいそう」と心配されたほど。7日の練習で左腕エース倉重から右越え本塁打を放ち、やっと復調を実感。「調子のいいときは逆方向に打球がいくので、状態はいいと思います」。初回の左前打やフェンス手前への中飛など、12球団関係者を感嘆させた。

広島市内の寮の自室ドアに、父から送られた新聞の切り抜きが張ってある。「優勝候補広陵に競り勝つ 大会史に残る金星」。昨夏、広島3回戦で英数学館に敗れた翌日の記事だ。右袖で涙をぬぐう真鍋の姿もはっきり写る。1年間、屈辱の瞬間と向き合った。朝5時過ぎから6時の点呼まで素振りを自らに課した。苦しみにも耐えられた。

悲願の夏初制覇へ、次は慶応との大一番だ。「今は甲子園で優勝することしか考えていません」。両目をギョロリとさせて、真鍋が言い切った。【柏原誠】

◆通天閣打法 漫画「ドカベン」で大阪・通天閣高校のエースで4番、左投げ左打ちの坂田三吉が得意とした打球を高々と打ち上げる打法。高さ100メートルを超え、落下につれて変化を起こす。高さ103メートルの通天閣に例え命名。ボールの落下前に本塁に生還し、相手の落球で得点することも。

▼ヤクルト小川GM ホームランバッターとしての素質が感じられる。ボールを遠くに飛ばす体の力が備わっている。さらに伸びる可能性を持っている。

▼オリックス牧田編成副部長 打席の雰囲気、当たった音、打球の角度。すべてに魅力がある。スター選手になっていくと思う。花巻東・佐々木くん、九州国際大付・佐倉くんの3人の中でもスケールは大きい。

▼阪神山本スカウト 反対方向に強い打球を打てるのが特長。調子の悪かった広島大会でも評価は変わらなかったけど、しっかり修正してきたのは評価できる。

◆ちなみに大谷は… エンゼルス大谷は4月30日(日本時間5月1日)のブルワーズ戦で、史上最高の「ムーンショット」を放っている。「3番DH」で出場し、3回に4試合ぶりとなる7号ソロをマーク。中堅バックスクリーン右奥に消えたアーチは、打球速度114・3マイル(約184キロ)の高速で飛び出し、高さ162フィート(約49・4メートル)まで達した。大リーグ測定システム導入後の8年では歴代最高到達で、滞空時間6・98秒だった。