星稜(北信越・石川)が広陵(中国・広島)との名門対決を制して初戦を突破した。

星稜が求めていたのは「脱皮」だった。甲子園で昨夏、今夏と連続して初戦敗退。主将の芦硲(あしさこ)晃太外野手(2年)は「全国に出てもなかなか勝てていなかった。自分たちは全国で勝つことがテーマ。やるのは選手なので」と危機感を募らせていた。

山下智将監督(42)は北信越大会の優勝後、思い切って、選手に伝えた。「神宮大会は選手たちだけでやってみようか」。

初戦の相手が広陵と決まった。選手だけのミーティングを重ねた。大きなテーマは全国屈指の好投手・高尾響(2年)をどう打つか。2年生中心に映像やデータを集め、配球の傾向、投球の特長を分析した。低めに伸びる速球と、鋭く落ちる決め球スライダーが生命線なのは分かっていた。難攻不落にも思えたが、対策をひねり出した。「追い込まれる前に打つ」「ピンチの場面では直球が少し浮く」と結論づけた。

プランを体現したのは3点を追う3回だ。1死一、二塁から3連打で同点。さらに能美誠也捕手(1年)の2点中前打で勝ち越した。この回だけで5安打、5得点。ストライクの見逃しはほとんどなかった。直球系に狙いを絞って、早いカウントから迷いなく振っていった。2巡目で一気に高尾をのみ込んだ。

芦硲は「データもあったし、ベンチ内で生の情報を共有できていた。甲子園でも活躍している高尾投手を打てたので、自信になりました」と胸を張った。もともとは打力を課題に始まった新チーム。山下監督は「強豪にどう立ち向かうんだろうと思って見ていました。つないで、つないでよく取ってくれましたね。途中、バントもさせようと思ったけど、選手のスイングを見ていたら、この流れに乗った方がいいなと思って、彼らを信じました」と猛攻に目を丸くした。

全国屈指の強豪だが、春夏の甲子園優勝には届いていない。あと、足りないものは何か。「選手主導」というチャレンジでつかみ取った勝利は、1勝以上の価値があった。【柏原誠】