高校球児それぞれに物語がある。5度の全国優勝を誇る横浜(神奈川)のグラウンドを7日、訪れた。アマチュア野球の現場を本格的に訪れ始めて3日目。予備知識も多くない。

どの選手に話を聞いてみよう。丸腰だった。数十人の野球部員が5組に分かれ、8種のトレーニングをこなしながら競うサーキット・トレーニングの最中。1人だけ目立っている選手がいる。彼にお願いしてみよう。練習の合間に1対1を作っていただいた。

2年生投手の青木君、とだけは高山大輝野球部長に聞いていた。まずはフルネームの確認。私が「青木」と書いたノートを「書きます」と、彼は受け取り「青木朔真」と完成させた。朔の字は、普段はどう説明しているだろう。

「八朔(はっさく)の朔、です」

けっこう難しい漢字だ。「通じづらいです」と青木は笑う。1月3日に17歳になったばかりだそう。福岡・八女市出身。「飛行機、乗れないかなと思ったんですけど」。ダイヤ乱れも収まり始め、越境入学先の横浜に無事戻ってきた。

「万波さんとか、テレビで見てました」

充実の肉体からしっかりと直球を投げ下ろす。多くの誘いもある中で、横浜を選んだ。

「(進路選びは)けっこう悩んだんですけど、最終的には村田(浩明)監督のもとなら、間違いないなと思って」

袖を通した横浜のユニホームは「ユニホームで圧倒できるというか、そんな感じはありますね」。ただ、秋の県大会では満足いく投球ができず。関東大会の花咲徳栄戦でもマウンドを任されたものの、今春のセンバツ出場は絶望的だ。

1人だけ目立っていた-。冒頭にそう書いた。何十人といる野球部員の中で、青木だけが袖を肘までまくってサーキットトレーニングに励んでいた。

「自分1人だけでした?」

ちょっと照れる。暖冬とはいえ、気温は1ケタ台。海も近く、それなりの風を感じる長浜グラウンド。取材で訪れた私なんぞ、マネジャーが用意してくれた強力なストーブとココアで暖まっているというのに、彼はなぜに袖を。

「袖まくってでも、少し寒くても、1位狙いたかったんで。少しでも軽くしようと。ダッシュ系とかが多かったので、腕を振っていこうと思って。気合入れて。どんなことでも1位、狙いたいです」

途中まで4位に甘んじていたが、終盤の大逆転で青木の組が優勝した。「早い人を中盤に入れて、そこで逆転しようと。最後に抜かせたのはたまたまで」。ゴール手前、部員全員が低空歩行トレをするアンカーたちを盛り上げ、フィニッシュへいざなった。

後輩の投手陣たちの急成長も感じる。その中で背番号1を目指す。チームとしても神奈川の「1」を必死に求める。袖をまくったシャツは、色も少々薄れ、しみこんだ汗の歴史さえ感じさせる。

「遠くから神奈川県に来て、お父さん、お母さんに恩返ししないといけないと思うし、応援してくれる方々の存在も今回帰省してあらためて感じて。本当に頑張らないと思います」

「下級生が付いていきたいって思えるような先輩に1人1人がなっていくことで、チームが良くなっていくと思います」

「みんな元気で、盛り上げていくのは大事にしていきたいです。練習からその雰囲気をもって。試合最初のウオーミングアップからでも相手ベンチに圧をかけられるように」

連ねる思い。九州男児の意地を、“横高”の意地を見せつける春、夏に-。「ありがとうございました!」。ひっそりと下ろしていた袖をまたまくり、青木は練習へ駆けていった。【金子真仁】