<高校野球・秋季北海道大会:鵡川3-1北海学園札幌>◇6日◇決勝◇札幌円山

 鵡川が北海学園札幌を3-1で下し、5年ぶり2度目の優勝を果たした。68歳のベテラン佐藤茂富監督が、決勝でも真っ向勝負の野球をいかんなく発揮した。犠打をいっさい使わず、初回に2点、4回にも1点を奪取。エース西藤昭太(2年)には直球指令を出し、力と力の対決でねじ伏せた。同じ室蘭地区の駒大苫小牧と入れ替わるように、04年春以降甲子園から遠ざかったが、そのスタイルを崩さず、3度目のセンバツ甲子園(09年3月21日開幕)出場を確実にした。

 鵡川ナインが歓声を上げ、ホームベースめがけて駆け出した。その後、佐藤監督は、ゆっくりとベンチからグラウンドに出ると、いきなり怒りだした。「早く整列、何をやっとる。早くしろ」。試合でも相手のことを思いやり、派手なアクションなどは禁止。選手たちは本塁打でも、ひたすら全力疾走でダイヤモンドを回る。甲子園をほぼ確実にした晴れ舞台でも、佐藤監督ははしゃぐ選手たちにブレーキをかけた。

 ブレーキはまだ続く。選手たちが監督を胴上げしようとしたが、佐藤監督はベンチの奥に立ったまま。森主将がベンチに行き「お願いします」と2回、3回と頭を下げて、やっと引き出された。そして、孫のような選手による6回の胴上げ。「こういうのは、おれは気にくわないんだ」と渋い表情でつぶやいた。

 佐藤監督は心に決めていた。決勝は勝っても負けても「いい気分になる野球をやろう」。エース西藤にはオール直球勝負を指示。攻撃も同じだった。小細工はろうさない。1回表に先頭打者の阿部が四球で出塁すると、犠打のサインはなし。2番宮本は迷うことなく、北海学園札幌・鍵政の初球を中前にはじき返した。これが先制の2点につながった。4回にも先頭西藤が四球で出たが、バントは使わず、阿部の右中間三塁打でリードを広げた。

 監督歴は44年にも及ぶ。選手たちとは年齢差約40歳。野球部寮で寝食をともにする選手たちとは、さすがにジェネレーションギャップを感じるが、1人1人に言葉をかけ、コミュニケーションは絶やさない。以前は厳しい指導でならしたが、年齢を重ね、丸みを帯びてきた。森主将は「しかるときは、びしっときます。でも、優しいところもあります」と話す。硬軟織り交ぜる選手操縦術で多感な子供たちをまとめてきた。

 鵡川は04年のセンバツ出場後、甲子園から遠ざかっている。その間、同じ室蘭地区の駒大苫小牧が全国優勝を果たし、明暗を分けた。それでも、小細工をしない鵡川野球のスタイルは変えなかった。オフのメニューもダッシュなどの筋力を強化するトレーニングが中心。打ち勝つ野球の基礎となる体づくりに主眼を置いた。守備は05年4月に赴任した折霜忠紀コーチ(51)との連携で鍛えた。基礎のあくなき積み重ねがこの秋、花開いた。

 野球部寮には佐藤監督の好きな言葉が掲げてある。「きょうまで苦しいことも、言いたいことも、不満に思うことも、これらをじっとこらえて、晴れ舞台に立っている」。優勝にも言葉少なだった鵡川の指揮官は、表彰式でこの言葉をかみしめていたに違いない。来春の甲子園では、道内の監督では過去に例のない68歳で采配を振ることになる。「もう最後かな、最高齢監督かなあ」と笑う顔には闘志がのぞいた。【中尾猛】