<高校野球埼玉大会:立教新座10-2志木>◇12日◇2回戦◇朝霞市中央公園

 元巨人の吉村禎章氏(51)の次男、立教新座・吉村俊主将(3年)が度重なるケガを克服し、初の公式戦で初勝利を飾った。観戦に訪れた両親の前で、1安打3四死球と4度出塁。志木を破る勝利に貢献した。

 野球が楽しくて仕方なかった。高校入学以来、初めての公式戦。立教新座の吉村主将が、ようやく晴れ舞台に立った。9回、リードした2番手の間宮稜投手(3年)が最後の打者を右飛に仕留めると、右手を握りしめて軽くガッツポーズ。ケガに悩まされた2年間の思いを、この1勝に凝縮させた瞬間だった。

 「あっという間でした。楽しかった」。吉村は2時間13分の夢のような時間を、そう表現した。1回裏、先発の坂井秀斗投手(3年)がストライクを取れず、2者連続で四球を与えても「抑えて」と冷静だった。2回の初打席は遊ゴロに終わっても全力疾走を忘れず、2打席目に三遊間をきれいに抜く初安打。その後の3打席が死球、四球、死球というのが、いかにも「苦労人」らしかった。

 「ヒット3本は打てないので、四死球でもいいです」。吉村には、左太もも裏と背中に受けた死球も勲章だった。高1の11月に椎間板ヘルニアの手術を受け、新チーム結成直後の2年の8月には右肘を痛めた。そして今年3月30日には練習試合で頭部に死球。一時は言語障害が出て、「野球どころではない」と悩むまで追い込まれた。

 それを支えてくれたのがチームメートだ。入院中も、通院して練習に出られないときもラインを使って「お前を待っているぞ」と励まされた。6月中旬、ベンチに入れない3年生を送る壮行試合では監督を務め、懸命にプレーする仲間を見て「あいつらの分まで頑張る」と誓った。

 そしてこの日、スタンドに駆け付けてくれた両親には誰よりも感謝している。「両親の支えがなければここで野球は出来ませんでした」。PL学園主将で81年センバツを制した父禎章さんは、「仲間と支え合うのが高校野球の原点。幸せだと思います」と話した。

 次はAシードの聖望学園。吉村は「全力で戦う」と気合を込めた。今夏で勇退する中学時代からの恩師、大野道夫監督(64)のためにも負けられない。【浅見晶久】