<高校野球岩手大会:宮古商5-0北上翔南>◇12日◇1回戦◇岩手県営野球場

 岩手の開幕戦で宮古商が北上翔南を下し3年ぶりの夏1勝を飾った。11日の予定だった開会式が台風の影響で91年以来23年ぶりの順延。さらに12日早朝に発生した地震で、宮古市に津波警報が発令されるなど、不安が重なる状況の中、先発の金沢拓弥(3年)が7回4安打11奪三振無失点と好投。3番平沼拓海(3年)も2安打3打点と活躍した。

 宮古のエース金沢は冷静だった。相手打者が苦手とするフォーク、カーブなどの変化球を低めに集め、7回まで11個の三振を奪った。心を落ち着かせたのは早朝に母成実さん(49)から届いた「大丈夫だから」とのLINEだった。

 この日の朝4時過ぎに福島県沖を震源とする地震が発生。宮古市にも津波警報が出た。「どきっとした」。3年前のことが頭をよぎった。11日に予定されていた開会式のため10日に宮古を出て、約100キロ離れた盛岡に滞在していた。家族は大丈夫か-。そんな不安は母の「がんばって」のメッセージで消えた。

 3年前の東日本大震災による津波で海のそばに立つ自宅は全壊。一生懸命に応援してくれていた祖母睦子さんを亡くした。今も暮らす仮設住宅の人々からは、「がんばって」と送り出されてきた。大会前には3年生部員は家族に手紙を書いたが、金沢はなかなかまとめられず。「9年間やってきて、毎日ユニホームを洗ってくれた」。この日の朝に感謝の気持ちを書き、マネジャーを通して母に渡してもらった。さまざまな思いを込めた1勝だった。

 野手陣も落ち着いていた。平沼は1打席目で三ゴロに倒れると、2打席目からバットを重心の違うものに変えた。すると3、4回にそれぞれタイムリーが飛び出した。春から状況に応じバットを使いわける作戦がここでも生きた。雨の影響で1日試合がずれこみ、しかも開幕戦。緊張はあったが「一番最初に夏が終わってしまうのは嫌だった」。いつも通りの力強いスイングで金沢を助けた。

 3年生と、今春就任したOBの山崎明仁監督(34)にとって初の夏1勝。雨、地震の不安を乗り越えての勝利に、山崎監督も「ほっとしました」とうれしそうだった。【高場泉穂】