チームを支える「10」がいる-。第96回全国高校野球選手権の岩手代表・盛岡大付の前川剛大捕手(3年)は、背番号10の主将でチームの精神的支柱。被災にも屈せず努力したことで昨春のセンバツではプラカード役を任されたが、今大会は県の優勝旗を手にナインの先頭に立つ。8日の開会式リハーサルでも胸を張って甲子園の土を踏んだ。

 盛岡大付・前川がプラカードを優勝旗に持ち替え、1年半ぶりに甲子園の土を踏んだ。「前は先輩に連れてきてもらったが、今回はつかみ取った甲子園。主将だし責任が生まれている」と言葉に力を込めた。

 14日の初戦で東海大相模(神奈川)と対戦する。昨秋、今春の東北大会で強豪の聖光学院(福島)を連続して引き当てていた前川は「みんなから今回もいろいろ言われました」と笑ったが、「勝てば歴史が変わる」ときっぱり。優勝候補が相手でも夏の甲子園初勝利は譲らない。

 チーム屈指の努力家で勉強も寮生活もしっかりしていることから、昨秋の県大会後にエース松本裕樹(3年)から主将を引き継いだ。秋は正捕手も春からはライバル狐崎楓月(3年)にその座を明け渡した。甲子園でも控えになりそうだが、右の代打の切り札として出場は確実だ。この日の近距離打撃練習では広角に長打を飛ばすなど好調。岩手大会後、手のひらの皮がむけるまで1・2キロのバットで150キロのマシンを打ってきただけに「速い球を打つ感覚はできている」と胸を張る。関口清治監督(37)も「どんな形でも使ってあげたい」と起用を明言するほどだ。

 中3になる春、大槌町の吉里吉里地区で震災の津波の被害に遭った。実家とともに父剛さん(41)が自ら漁でとったアワビやウニをふるまう飲食店「凛々家(りりしや)」も全壊した。家族は今も仮設住宅生活が続くが、店は現在、以前の場所に建て直しているという。「甲子園が終わったころに再オープンです」と前川。復興へ歩む家族に、勝利の喜びも届けたい。【高場泉穂】

 ◆前川剛大(まえかわ・たけひろ)1996年(平8)5月28日、岩手県大槌町生まれ。吉里吉里小1年で吉里吉里スポーツ少年団で野球を始める。吉里吉里中3年時に捕手で県選抜入り。盛岡大付では2年春からベンチ入り。172センチ、80キロ。右投げ右打ち。家族は両親、兄、弟2人。