<全国高校野球選手権:鹿屋中央2-1市和歌山>◇13日◇1回戦

 甲子園の魔物は、最後に信じられない悲劇を生み出した。市和歌山が今大会初の延長戦でサヨナラ負け。12回1死一、三塁で二塁ゴロを処理した山根翔希二塁手(3年)が、本塁ではなく一塁へ送球する痛恨の判断ミス。その間に三塁走者がホームインしての悪夢だった。堅い守りで乗り込んだ甲子園。難しい判断が要求される守備も鍛えてきたチームだったが、それが裏目に出る運命のいたずらに、涙が止まらなかった。

 堅守を誇るチームに、非情すぎる結末が待っていた。1-1で迎えた延長12回1死一、三塁。詰まった当たりは山根の前に転がった。本塁へ送球か…。そう思った瞬間、一瞬ためらった山根は、悲痛な表情を浮かべながら一塁へ送球した。その間に三塁走者はサヨナラのホームイン。突然の結末に、鹿屋中央ナインは何が起こったか分からず、一瞬間をおいてから小躍りし、市和歌山ナインはその場に崩れ落ちた。

 直前、半田真一監督(34)は伝令を送っていた。「三塁走者が走ったらバックホーム。走らなかったら(二塁での)ゲッツーを狙う」。状況判断が要求される指示だったが、その練習は繰り返し積んできた。しかし甲子園の熱気、歓声、独特な雰囲気で冷静さを失った。

 山根は「指示は頭に入っていた。でも打球が思ったよりはねなくて…。冷静な判断ができなくなっていた」と声を絞り出した。打球が強いと判断した瞬間、二塁での併殺とホームで迷った。さらにジャッグルした。「頭が真っ白になった」。一塁への送球は「体が勝手に…。知らぬ間にファーストに投げてしまった」と号泣した。

 県大会5試合ではチーム失策は3。9併殺も記録した。その中でも山根は無失策で、好守で勝利に貢献してきた。この日も初回1死満塁のピンチを、山根の好捕から併殺で切り抜けた。半田監督は「守りで県大会ずっと助けてくれた。守備はぴか一」と評する。131球完投したエースの赤尾も「あいつの守備でずっと助けられてきた。最後ああいう形になったのは仕方ない。ありがとうと言いたいです」とかばった。

 「自分のせいで台無しにしてしまって申し訳ない」。山根の目からは涙があふれて止まらない。チームメートに抱きかかえられながら甲子園を後にした。「指示が徹底できなかった。声が行き届かない甲子園の怖さがありました」(半田監督)。いつも通りにいかないのが甲子園。まさに魔物がすんでいた。【磯綾乃】