阪神鳥谷敬内野手(35)が、あしながおじさんとしてフィリピンを電撃訪問していたことが11日、分かった。昨季から一般社団法人「レッドバード」の理事として、アジアの恵まれない地域の子どもに靴を届ける活動を開始。全国からの公募で15年度は1万2272足を集め、6日にマニラ市内で直接手渡した。阪神で一時代を築く背番号1が、異国でも子どもたちのヒーローになった。

 来季の巻き返しを期す鳥谷は12月上旬、人知れず海外にいた。滞在先はフィリピン。しかも、東南アジア最大のスラムといわれるマニラのトンド地区だ。車窓からゴミをあさっている子どもが見えた。道にヘドロがたまり、ゴミがあふれる川は悪臭を放つ…。最貧困で危険極まりないエリアにあえて足を踏み入れたのは、理由があった。

 危害が及ぶ恐れもあり、関係者には制止されたという。それでも「自分で靴を渡したいんです」と、おとこ気の現地入り。手には小さな靴を持っていた。はだしの子どもが近づくと、しゃがみ込んで靴を履かせてあげた。地元の学校へ500足の靴を寄付した。

 鳥谷 スリッパすら履かず、はだしのままで来る子や足をケガして血が出ている子もいた。子どもたちは靴を見て、とても喜んでくれて、その場が笑い声で包まれていて、あらためて、靴の大事さを感じました。

 2年前にフィリピンを訪れたのがキッカケだった。14年12月、野球教室を行うためにマニラを訪問。街の光景を見て、がくぜんとした。「子どもが靴を履いていない。ここに必要なのはグラブじゃない。靴なんだと初めて気づきました」と振り返る。関係者と相談して、15年4月に一般社団法人「レッドバード」を創設。理事として、恵まれない地域に子ども用の靴を贈る活動を呼びかけていた。

 15年度は全国から目標を上回る1万2272足が集まり、鳥谷は「賛同していただいている方々に感謝します」と話す。2年ぶりの現地慰問では「レッドバード」からカトリック系慈善団体「カリタスマニラ」に50万円の学資を寄付。子どもたちとも野球で交流した。子どもがはだしで動き回ればケガにつながり、感染症にかかる恐れもある。鳥谷も4児のパパ。1人の人間として心を突き動かされた。

 鳥谷 今回のフィリピンでの経験がまた1つ自分のなかで変わっていくのを感じ、考えさせられました。

 今季は不振に陥り、打率2割3分6厘、7本塁打にとどまった。667試合連続フルイニング出場で止まり、遊撃の定位置も失った。だが、鳥谷はそういう境遇でも、精力的に活動する考えを示したという。今オフからは靴に加えて、未使用の文房具も募る。自身の野球人生のために、そして靴を待つ子どもたちのため、グラウンド内外で真剣勝負する。【酒井俊作】

<阪神選手の慈善活動>

 ◆岩田稔 1型糖尿病の患者・家族の支援団体に、1勝につき10万円を寄付している。自らが大阪桐蔭時代に1型糖尿病を発症。クリスマス期間などには、病院に子どもたちを訪ねて勇気づけたり、家族へ向けた講演も行っている。

 ◆藤川球児 メジャー挑戦前から活動に熱心だった。故郷・高知の元高校球児が骨髄移植を必要とする状況を知り、07年から骨髄バンク支援に取り組む。また、不登校の児童の後押しに、甲子園の公式戦に子どもたちを招待した。

 ◆能見篤史 14年から1勝につき10万円分の玩具を、兵庫県内の施設等に贈る活動を行っている。今年11月に球団制定の「若林忠志賞」を受賞。同賞は社会貢献活動などで、プロ野球界のパイオニアだった球団OBの故若林忠志氏の功績をたたえ11年に創設された。

 ◆赤星憲広 03年からシーズン盗塁と同数の車いすを寄付。全国の病院や福祉施設にサイン入りで贈られた。