振り抜いたバットから手を放すと、広島鈴木誠也外野手(22)は打球の行方を最後まで見届けずに一塁へ走りだした。リードを2点に広げた3回。ヤクルト石川の内角球を左翼席中段まで運んだ。敵地神宮の左半分を真っ赤に染めたファンから大歓声が注がれた。しかし、ダイヤモンドを回る若き4番に笑みはなかった。

 5試合ぶりリーグ4位の17号も、自分の打撃に納得がいかない。2打席連続三振を含む3三振。鈴木は報道陣の質問にかぶりを振り、無言を貫いた。1発を打った喜びよりも、自分の打撃ができないいら立ちの方が強い。6月9日時点で3割2分2厘あった打率は、2割9分まで落ちてしまった。

 もがき続ける中で、前4番が作った流れに乗った。前日7日、新井が決勝の逆転3ランを放った。鈴木と同じく若くして4番を務めた先輩は頼れる相談役だ。「3番も5番も打たせてもらったことがあるけど、やっぱり4番は違う。4番目じゃない」。これまでにない重圧を背負う22歳は、新井から「自分で乗り越えるしかない」と声をかけられる。ただ、言葉だけでない。劇的弾の背中でも4番道を伝えられた。前日は5打数無安打と結果を出せなかったが、この日は試合を決定づける1発で、先輩を手本にした。