<西武8-1ソフトバンク>◇17日◇メットライフドーム

西武中村剛也内野手(35)のとどめの1発には、17年目の変化が凝縮されていた。フォーム、バット、そして理想の打撃像。希代のホームランアーチストは、アーチを描くため、新たに何に挑んだのか。今季9本目の右翼方向への1発は、確かな進化を示していた。

同期栗山の満塁弾から追加点を奪えずに迎えた7回2死一、三塁。中村はスアレスの初球、外角153キロを振り抜いた。右翼席最前列にライナーで運ぶ26号3ラン。「真っすぐが速い投手。何とか振り負けないように、しっかりスイングしようと思った。中継ぎ陣もすごく頑張っていたので、もう少し早く(追加点を)取りたかったですけど」と主砲らしく振り返った。

マジック点灯へ、試合の大勢を決めたひと振り。逆方向への1発を「ただの振り遅れ。振り遅れても、しっかり振って芯に入れば飛びますから」と笑ったが、17年目の新たな挑戦が土台にあった。

「打席では、胸や背中を動かすことを意識している。今までは静→動へ、瞬発力で出来ていたけど、今は動→動でないと正直厳しくなってきている」

以前は、どっしり構えて一気に振り出して打てていた。現在は構えながら肩を動かし、バットを軽く下げてから振り出す。タイミングの取り方の変化だけではない。そうすることで瞬発力の低下を補っている。

バットも8月から以前より約50グラムも軽い890グラムで、長さが0・25インチ(約6ミリ)短い33・75インチに変更。トップバランスの長距離打者用は変わらないが「今はこれが一番しっくりくる」と話す。軽量化した相棒を動→動のフォームで操ることで「ダメな時、ファウルや空振りしていた球にバットが“間に合う”ようになった」。だから、たとえ差し込まれてもヘッドを利かせられる。昨季27本中2本だった右翼方向への打球が今季は9本。「ライトへのホームランが増えているのは今年からの取り組みもあるでしょうね」と明かした。

理想の本塁打は「左中間方向」。今でも「右方向に距離が出ても納得した打球ではない」という。それでも「逆方向も理想なのかな」と思えるようになった。自分の職業は「バッター」。引っ張ってたたき込むだけでなく、たとえ間に合わせた形でも球を芯に入れてスタンドまで運ぶ。年を重ね、体を見つめ直す中で新たに気付いた境地だった。

開幕から首位を譲ることなく頂点に立つ、オール1位の優勝も見えてきた。「目の前の試合を全力で勝ちにいってマジックが出た。これからも同じ。そうやって減らしていければいい」。打つために変化を選んだ頼もしい男のバットが、西武の新たな歴史をたたき出す。【佐竹実】